「そういえば、今年のバレンタインって何日だったかしら……?」
ツァンダ郊外の小さな雑貨屋『ウェザー』で、看板娘のサニーが呟きました。
※ ※ ※
「……何だよ、この大量のチョコは」
三つ子の姉、サニーに連れられて店に入ったレインとクラウドは、唖然とした声を上げました。
店の中は、チョコ、チョコ、チョコ。
「安かったから、大量に仕入れちゃった☆ バレンタイン用にと思って」
「バレンタインって、もうとっくに過ぎちまってんだけど!」
「明らかにコレ在庫処分品だよな」
てへ☆ と舌を出すサニーですが、弟たちの言葉を聞いて顔を曇らせます。
「それが問題なのよねー。一体どうやってこのチョコを捌こうかしら」
無計画な姉の出した難題に、兄弟は頭を抱えます。
3人で知恵を絞った結果、いくつか案が上がりました。
・お友達とチョコパーティー! 恋や愛はちょっと一休み、のんびりまったり友チョコしましょ。
・ラスト、バレンタイン! 今からでも遅くない、勇気を出し切れなかったあなたに最後のチャンス!
・チョコの素敵な活用術! チョコ活用コンテスト開催!
「最初の二つ、思いっきり矛盾してんだけど!」
「まあまあ。チョコ活用コンテストの一位賞品は、優勝者の等身大チョコでどうかしら?」
「ごめん俺それを超えるチョコの無駄使い思いつかない」
「切ったら中からとろりとチョコが垂れてくるホットチョコケーキ仕様よ☆」
「何だよその無駄なギミックは……」
早速大量のチラシが作られ、各地に配られました。
※ ※ ※
さて、ウェザーから南、さほど遠くない繁華街。
歩いていた一人の男性が、不意に苦しみ始めました。
「くそう、どうしてオレは貰えなかったんだ……」
ぐもももも……
男性から灰色のオーラのようなものがにじみ出たかと思うと、見る間に男性を包み込んでいきます。
男性は灰色のヒトの形をした物体に変化してしまいました。
気が付けば、周囲の男性数人からも同様のオーラが。
いつの間にか、周囲にはたくさんの灰色人間が誕生してしまいました。
「あソこに、憎いアレが大量に集まってイる……」
灰色人間たちは、一斉に北の方を睨みつけ、歩き始めました。
※※※
「わっ、あれは何だ?」
「ぺっ! 何だこの味は!?」
灰色人間たちの行進は続きます。
何故か、灰色人間のオーラに触れた食べ物はとてつもなくマズくなってしまうようです。
「新作でーす。よろしければおひとつどうぞ☆」
灰色人間の一人が、町の少女から小さなチョコを手渡されました。
ぱぴゅん!
軽い破裂音と共に、渡された灰色人間のオーラがはじけ飛びました。
「あれ、オレは何をしてたんだろう……」
一人の灰色人間の携帯にメールが来ました。
『この間はノート貸してくれてありがとね☆ 今日の分もお願いしてもいいかなぁ?』
ぱぴゅん!
「こ、こんな事やってる場合じゃない! すぐノート取りにいかなくちゃ!!」
「きゃあっ!」
強風が、一人の女性のスカートをぴらっ☆
ぱぴゅぱぴゅぱぴゅん!
5人ばかり、灰色人間のオーラがはじけました。
「えエい、軟弱者メ…… 我らは行くゾ、憎いアレをマズくするたメに……」