イルミンスール魔法学校

「お化けクジラ退治？」

　ここは蒼空学園にほど近いとある定食屋。
　ピーク時間を過ぎて静かになった店内で雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）は、カウンターの向こうで首をひねる友人に頷いてティーカップを傾けました。　
　その友人の少女はジゼルという名の、かつて人の手により作られた戦闘用生物セイレーンの生き残りでした。
「退治というより取り敢えずのタテマエは調査ね。
　ここ数日頻発してる船の行方不明事件も、漁獲量の急激な減少も全部この化け鯨の所為なんだって」
「……なんだかちょっとお伽噺みたいな話ね」
「でしょ？　でも先日遂に本当の目撃者まで現れたのよ」
「それってこの間見つかった漁船の船体がめちゃめちゃに破壊されてたってあの事件？」
「そうそれ。漂流して助かった乗組員の生き残り達が島みたいにで〜っかい化け鯨に襲われたって証言したのよ。
　海運業者の方は信じてないみたいだけど、乗組員が皆気味悪がって海にでてくれなくなっちゃったみたい。
　だから”そんなもんいない、安全だから海に出て下さい”って言う為に明日契約者が調査に出るのよ」
「でもそれで何故雅羅が船を運転する事になったの？」
「依頼してきた海運業者の用意した貨物船っていうのがちょっと特殊でね――
　さっきちょっと見せて貰ってきたんだけど操舵（そうだ）を手動ではなく、操舵手の精神力で動かす事が出来るの。
　それにプラスして……まぁなんていうか、商売人って現実主義でドライだわ。
　”どうせ化け鯨に遭遇する為に行くんだから災厄が起こるなんて気にしない。
　それよりも過去事件に遭いまくった私の何が起こっても動じない強靭な精神力で操舵して欲しい”って
　カラミティサンダース様に操舵手を打診したって訳」
　ティースプーンを回しておどける雅羅にジゼルは噴き出します。
「それで雅羅は？　信じてるの、そのお化け鯨」
「うーん、５０・５０ってとこ？　デカイって方は兎も角見た事もないモンスターが居ても別におかしいとは思わないもの。
　信じてないのは例の乗組員の証言の方ね。
　化け鯨の不思議な歌を聞いたら皆が海に飛び込んでいったってやつ」
　雅羅の言葉を聞いた途端、カウンターの向こう側でジゼルは拭いていた皿を床に落としてしまいました。
　そして唐突に巡ってきた考えに囚われたまま割れた皿の破片を拾い集めていた指先には、うっすらと血が滲んでいきます。
「ジ、ジゼル？　大丈夫、破片で切ったの？　血が……」
　心配する雅羅に、ジゼルは震える声で切り出しました。　　
「あのね……セイレーンの歌は人を惑わせる魔力があるの、それは元々船を難破させる目的の為に与えられたものだったわ。
　化け鯨の歌……もしかしたら私達セイレーンに関係ある事かもしれない……お願い雅羅、一緒に連れて行って！！」
「……分かったわ。一緒に行こう」
　動揺で揺れる藍緑色の目をこちらへ向けて懇願するジゼルに反射的に頷いた雅羅は、その時知りませんでした。
　翌日彼女たちを乗せ出港した船が化け鯨に襲われ、舵を失い無人島に辿り着く事を…。　

　皆様とジゼルと雅羅を乗せた船は、パラミタ内海を進んでいたところ化け鯨に襲われ、夕方、無人島に漂着しました。
　本シナリオでは、「夕方から翌朝までの無人島生活」と「翌朝、無人島より出発した後の、化け鯨との戦い」が行われます。
　その為ダブルアクションが一部のみＯＫになっております。詳しくは下記、＜ダブルアクションについて＞の項をご覧ください。

　また、こちらは「夢見月のアクアマリン」「夏初月のダイヤモンド」の続編にあたりますが、
　同シナリオに参加なさっていらっしゃらない（読んでいらっしゃらない）お客様も自由にご参加頂けます。
　オリジナルキャラクタージゼル、化け鯨、船の詳しい設定はマスターページにございますのでそちらをご覧ください。

＊＊＊

　シナリオガイドに目を通して下さって有難うございます。東安曇です。
　今回のシナリオで三作続いたシリーズは最終回を迎える予定です。
　化け鯨戦では皆様で総攻撃を仕掛けて頂き、それが上手くいかないとバッドエンドへ分岐します。
　打ち合せにはシナリオ参加者用掲示板をご利用下さい。

　さて、今回のシナリオを時系列を追って説明させて頂きますと、　
　朝に港を出港。昼過ぎまで航海をしていたところ鯨に遭遇。ジゼルの歌で命は助かったものの正気（意識）を失ったままの皆様を乗せた船は無人島へ。
　意識を取り戻りた皆様が目覚めたのは夕方、夜に鯨に遭遇しては更に危険なので翌朝まで体力を回復がてら一晩過ごす事に。
　翌朝無人島を出発した後、港に辿り着くまでの海で化け鯨に再び遭遇するものと思われます。
　下記の内容と含めまして、アクション作成の参考になさって下さい。　

　＜ダブルアクションについて＞
　今回のシナリオは、上記の時系列を追う形でストーリーが進みます。
　＞＞ＭＣ（メインキャラクター）
　無人島で一晩過ごした後に鯨と戦う事になりますので、アクション欄に【無人島】と【鯨戦】の二つのアクションをご記入下さい。
　こちらはダブルアクションになりません。
　しかし一度に二つの行動をとる等の通常のＷアクションとなってしまうものは、Ｗアクションとして判定されてしまいますのでご注意ください。

　＞＞ＬＣ（リンクキャラクター）
　無人島で一晩過ごした後に鯨戦では船のサポートを行いますので、アクション欄に【無人島】のみのアクションをご記入下さい。
　鯨戦にはご参加頂けませんのでご注意ください。　


＊＊＊

【船や食糧】
　三本マストの特殊な帆船で、操舵輪等に機晶石が組み込まれており、操舵手の意思の力で舵を取る事が出来ます。
　遭難した後も、船自体は無事でした。
　しかし化け鯨の調査が目的だった為、船腹には人数分の一食分の食糧（缶詰）と水、毛布の準備しかありませんでした。
　因みに甲板や一部船室が一度化け鯨に襲われた際に水で濡れたので、そこで横になるのはお勧めしません。
　化け鯨戦では、ＬＣ達は船をより安定させる為、船腹へ降りてしまいます。　


【無人島】
　中央の森をビーチで囲む、半月型の島で徒歩で一周２時間程度。
　文明の痕は無く、南国風の動植物が生息しています。
　モンスターはちょっとした攻撃で追い払える程度のモンスターしか生息しておらず、契約者の敵という程ではありません。
　船も契約者達も無事だった為ここから帰る事は簡単ですが、港からかなり離れてしまったので出発は翌朝になりました。


【化け鯨】
　頭から尾までで全長１２０〜４０メートルを程の巨体で、動物の鯨というより鯨座に似た形状のモンスターです。
　二本角と長い舌のある頭部・水かきのある両手・魚の尾を持っており、その周辺一帯の海は嵐に見舞われます。
　巨大な両手で襲われる（全体攻撃）、長い舌に巻かれ食べられる（単体攻撃）等の恐れがある他、
　不思議な「歌」を聞いた者は正気を失い、自ら海に飛び込んでしまいます。（何らかの方法で耳を塞いでも聞こえます）

　こちらの戦闘はＭＣのみ、参加頂けます。
　飛べないキャラクターでも船上から腹部、背中以外は攻撃出来ると思って下さい。
　身体に乗り移り攻撃は可能ですが、当然ながらハイリスクで、キャラクターは危険な状態に陥ります。

　鯨には特別弱点がある訳ではないので、
「剣で頭部を攻撃する」「空を飛んで背や腹部に攻撃する」「攻撃をするＰＣをサポートする」「歌を歌うＰＣ達を守る」等
　役割を分担し協力をした上での総攻撃が効果的です。

　大きさや距離の測り方等について詳しくはマスターページの絵をご覧ください。
　

【ＮＰＣ】

＞＞雅羅
　船の操舵手として舵を取っています。
　操舵は手動ではなく精神力（魔力）で動いているので、彼女が集中出来ない状態になる・意識を失うと船は舵を失います。
　
＞＞ジゼル
　メインマストの最上部のヤード（横にのびる棒）に立っており、「セイレーンの歌」を歌う事で化け鯨の歌を相殺させています。
　化け鯨の攻撃を一番受けやすい状態で、ジゼルの歌が止まるとキャラクターは正気を失ってしまいます。
　セイレーンには羽根がありますが、ビルの十数階程度の高さなので落ちて無事かどうかは本人も「やった事ないから自身無い」状態です。
　ここに居る状態のジゼルの歌に守られる範囲は船全体プラス十数メートル。
　
　飛翔戦が可能なキャラクターもジゼルの声が聞こえない範囲まで飛ぶ事は可能ですが、
　歌に操られる可能性が高く、危険な状態に陥ります。
　
　ミンストレルやディーバはアクションに【デュエット】と記入すると、ジゼルの歌を遠くの仲間まで響かせる（増幅させる）事が出来ます。
　具体的にはプラス４〜８メートルずつ範囲が増えます。
　また「〜歌」「激励」「咆哮」を使用するとそれぞれのスキルの効果をプラスする事が出来ます。
　

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