イルミンスール魔法学校

　――タシガン空峡。

　蒼空学園のあるツァンダと、薔薇の学舎のあるタシガンとの間に広がる空の狭間です。
　タシガンに住む吸血鬼の貴族達は、商人にとって無くてはならないお得意さまです。
　そのため古くから交易の飛空艇や飛行船が行き交う交通の要衝となっています。

「そんなタシガン空峡にも、『船の墓場』と言われる空域があるのよね」
「『魔の空域』って奴だな。海で言うところの暗礁地帯のように見えにくい浮遊岩や御しきれない独特の気流、急変する気流が引き起こすのが一般的だ」
「へぇ、案外博識なのね」
「竜騎士の一般常識だ」
「勤勉なお兄さんの影響かしら」
「あんな事務能力特化のヘタレと一緒にされると反吐が出るぜ」

　驚く高根沢　理子（たかねざわ・りこ）に、キロス・コンモドゥス（きろす・こんもどぅす）は微苦笑で応えました。
　２人はタシガン空峡を臨む、ツァンダ側の岸にいます。

「他にもシャンバラ古王国時代の遺物が引き起こしているケースもあるな。気流コントロールセンター跡なんかがその最たるものだろう」

　気流コントロールセンター跡とは、シャンバラ古王国時代に造られたと言われる、タシガン空峡の気流を人工的にコントロールして飛行艇や飛行船を安全に往来させるための施設です。

「5000年前のシャンバラ古王国崩壊時に暴走しちまって、ランダムに気流を変えちまったり、急変させたりするから、飛空艇乗りの間じゃ見つかっているものには近付かないな」

　キロスが言うように、気流コントロールセンター跡は複数見つかっており、その近辺は船の墓場となるため、飛空艇乗りは情報を共有して近付かないようにしています。
　それでも年に数回、気流コントロールセンター跡の影響と思しき飛空艇や飛行船の事故が起こっています。

「他にも、気流コントロールセンター跡そのものが、飛空艇の動力源である機晶石そのものに影響を及ぼして航行不能にさせるなんてケースも……まさか、貴様……」
「ぴんぽんぴんぽーん♪　流石は【エリュシオンの暴れん坊龍騎士】ね。察しが良くて助かるわ」
「代王自らデブリ掃除たぁ、シャンバラ王国の政は余程ヒマなんだな」
「ちっちっちっ！　あたしは蒼空学園のいち女子生徒・遊び人の理子っちよ。タシガン空峡を少しでも安全に航行できるようにするのは立派な仕事だし、それにこういうことはコントラクターじゃないと出来ないでしょ？」

　今の理子はお忍びとして代王だと分からないよう、蒼空学園の女子の制服を着ており、代王の装飾の時はアップにしている髪を下ろしてロングヘアにし、斬姫刀スレイブオブフォーチュンも佩いていません。
　気流コントロールセンターには動力源として巨大な機晶石が使用されており、センターそのものの暴走によって航行中の飛空艇に影響を与えてしまうケースもあります。
　そこで理子は、機晶石の動力源に頼らないワイバーンを駆るドラゴンライダーのキロスをお忍びのお供に選んだのです。

「確かに、デブリ狙いのバンディッツや、機晶石に引き寄せられる野良ワイバーンやドラゴンは恐いし、気流コントロールセンター跡の中には未だに機晶ガードロボが稼働しているケースも多いわ。でも、あなたなら“琥珀の眠り姫”に興味があると思ったんだけど？」
「！？　アンバー・コフィン……なるほど、そういう事か。いいぜ、気流コントロールセンター跡の１つや２つ落としてやんよ」

　バンディッツとは、空賊の中でも事故を起こして航行不能になった飛空艇などからパーツや物品を取ることを専門としている者達の俗称です。遺品などでも売れるものであれば根こそぎ持っていくことから、空賊の間でも敢えて俗称で呼んで分けています。
　“琥珀の眠り姫（アンバー・コフィン）”という単語を聞いた途端、キロスは俄然やる気になりました。
　ただ、キロス１人だけでは手数が足りないと思った理子は、各校の生徒達に依頼を出しました。


　シャンバラは東西に統一されましたが、政府の目が行き届かない日陰で困っている人達はまだまだいます。
　理子は身分を隠し、そういったことを１つ１つ自ら解決しようと行動に移していました。

　“じゃじゃ馬代王”の世直しが始まります！

　このシナリオは、タシガン空峡にある気流コントロールセンター跡の１つを機能停止にするのが目的です。
　理子は全学校に依頼を出していますので、どの学校の生徒の参加も大歓迎です。

■気流コントロールセンター跡について
　巨大な機晶石を動力源に、気流を安定させる人工衛星のようなものです。
　イコンの「機動要塞」のような形状をしており、近付くと認識コードを求め、一定時間以内に認識コードが入力されなかったり、入力される前に近付こうとすると機晶キャノンによる迎撃を行います。
　動力源の機晶石のエネルギーに引き寄せられるように、周りには野良レッサーワイバーンや野良レッサードラゴンなど、飛行可能なモンスターがうろついています。モンスターには迎撃は行われません。
　また、気流コントロールセンター跡の近辺は飛空艇の事故多発地帯になっており、事故った機体を狙うバンディッツもいます。

　近付くには、レッサーワイバーンやワイルドペガサスといったモンスター系の乗り物や、空飛ぶ箒など機晶石を動力源としない、飛行可能な乗り物が必要です。
　「機晶」とつく武器や防具も影響を受け誤作動を起こしたり、使用不能になりますので、装備にもご注意下さい。

　なお、機晶姫は長居しなければ影響を受けない、とします。

　野良モンスターやバンディッツの露払いは必要ですし、内部には防衛用の機晶ガードロボ（シャンバラ教導団の学校入口にあるロボットと同型）が未だに活動していますので、注意が必要です。
　動力源の機晶石を止めることが出来るのは、アーティフィサー系のクラスに就いているPCのみとなります。
　いない場合は動力源の機晶石を破壊して、タシガン空峡に落下させる措置を取ります。

■バンディッツについて
　空賊ですが、事故を起こして航行不能になった飛空艇などからパーツや物品を取ることを専門としている者達の俗称です。
　遺品などでも売れるものであれば根こそぎ持っていくことから、空賊の間でも敢えて俗称で呼んで分けています。
　彼らはフライングポニーやヒポグリフといった飛行可能なモンスターに騎乗し、銃器や弓矢、ブージといった飛び道具で武装しています。

■理子とキロスについて
　理子はワイルドペガサス、キロスはレッサーワイバーンに騎乗します。
　また、飛行可能な機晶機を動力源としない乗り物を所有していない場合、理子がフライングポニーを貸してくれます。

■琥珀の眠り姫（アンバー・コフィン）について
　空賊やドラゴンライダーの間で噂になっている伝説の１つです。
　シャンバラ古王国時代、崩壊するシャンバラ王国より脱出しようとした令嬢を乗せた飛空艇がタシガン空峡で座礁し、令嬢は眠りに就いたまま未だに漂っていると言われています。

　空賊の間では至宝の１つと言われており、探す者は後を絶ちませんが、見つかったという報告はありません。
　キロスも探しているようです。
　この噂を知っているのは、空賊かドラゴンライダーのクラスに就いているPCのみとします。

・気流コントロールセンター跡周りの敵の露払いをする

・気流コントロールセンター跡の動力源を止める

・琥珀の眠り姫の情報を集める