「フリーマーケットを開催しましょウ!」
雑貨屋『ウェザー』の看板娘、サリーが今日も何かを思いついたようです。
一時期は具合を悪くして寝込んでいた彼女ですが、今ではすっかり元気になった様子で、今日も栗色の美しい髪をなびかせながら、ぱたぱたと店内を走り回っていました。
「フリーマーケット? うちで?」
真っ先に反応したのは双子の弟のレインでした。
「えエ。うちの広場で、皆で商品を持ち寄ってもらって自由に売買ができるようにしたラ、楽しいんじゃないかしラ? うちの店の商品も格安で提供すれば、在庫処分にもなるシ」
「なるほど、さすが姉さん」
「ふーん。まあいいんじゃね?」
感心するレインに、双子の兄のクラウドも同調すると、早速準備をしているサリーを手伝い始めました。
どこか、この光景に違和感を感じながら。
しかし、それが何なのか分からないまま――
「姉さん、この本も出品するのか?」
レインが手にしたのは古びた本。
革張りの分厚いその本は、書いてある文字こそ分かりませんが、何らかの魔術的要素のこもった本のようでした。
「えエ。お願イ」。
「でもこの本、たしか前に、危険だからどうにか処分しなきゃって言ってなかったか?」
クラウドが不思議そうに横から顔を出しました。
この本は、以前に彼らの姉が怪しげな伝手で仕入れてきたモノの一つだったのです。
「たしか、本の中に魔物が住んでいて、持ち主の心の弱みに付け込んで心を吸いとるとか、吸えば吸うほど力を増すとか……」
「あア、それは全然問題なかったみたいイ。他の売り物と一緒に並べちゃっテ」
「ならいいけど」
「お願いネ」
首を傾げながら準備を進めるレインとクラウドを見ながら、サリーはそっと呟きました。
瞳を閉じ、両手を組み合わせて、祈る様に、謝罪する様に。
「……ごめんなさイ。私はもウ、あそこに戻りたくないノ……」
「一人分、ここまで吸いとったのハ、はじめてだったノ。まさカ、こんな事になるなんテ……」
※※※
「暗い――ここは、どこ?」
少女は呟きました。
周囲は少女の金色の髪の色すら紛れる暗闇。
一体、彼女はいつから、どうしてここにいるのでしょう。
「私、遊びに行ってからしばらく寝込んでて……それから、どうしてこんな所にいるのかしら。みんなは? お店は?」
とこからか楽しそうな声が聞こえてきました。
何かを準備しているような物音も。
「……なんだ。私がいなくても、皆、楽しそう。――なら、いいか。何かやろうとして、誰かを傷つけたりするくらいなら、ずっと、ここのままここで――」
少女はゆっくり瞳を閉じました。