パラミタ大陸が現れて以降、彼の地に足を踏み入れる者は後を絶ちません。
彼らの背中を押すのは探究心であったり、知識欲であったり、はたまた野望であったりと様々です。
そして今日もまた一人。
地球で暮らすことよりも刺激のある日々を求めてパラミタの地に降り立つ一人の若者がいました。
青空学園の制服に身を包み、人が入れそうなほどの大きな鞄を手にする彼の名前は東雲 優里(しののめ ゆうり)。
今日から蒼空学園分校に編入することになった冒険者志望の青年です。
「――来たんだ」
分校の門前で優里は感慨深く呟きました。
地球にいたときに憧れていたテレビの中の世界に自分はいるんだ、優里のそんな気持ちは隠すことができずに顔に出てしまいます。
にへら〜っと緊張感のかけらも感じさせない笑みは人によってはだらしなく見えるかもしれません。
少なくとも彼の隣にいた人物にはそう見えたようです。
「顔が緩んでる」
「え、そうかな?」
「そうよ。胸の大きい女を見てるときみたい。絞めたくなる」
ギュッと両手で首を絞めるような仕草で応えたのは優里のパートナー、東雲 風里(しののめ かざり)でした。
優里を見上げる顔は能面のようです。元々表情が豊かというわけでもない彼女にとってはこれが普通のようです。
しかし優里には風里がどんな気持ちなのかわかるようで――
「フウリも楽しそうじゃんか」
「楽しくないわ」
職員室に寄り、編入手続きを終えたあと、教員に学園の案内をしてもらいました。
案内している教員が言います。
「この蒼空学園分校では特別教室が多く用意されている。理由は目的に応じて生徒たちに成長してもらうためだ。そして君たちは冒険者としてここに編入したわけだが……」
告げた教員がグラウンドへ向かうと、そこにはたくさんの生徒たちの姿がありました。
蒼空学園の生徒だけではありません。天御柱学院やシャンバラ教導団など他校の生徒たちの姿もありました。
「まずはじめに 君の実力を見せてもらおうか。ついでに訓練も積んでいくといい。初日だからと見学だけで済ませるほど俺は優しくないぞ。冒険者ともなれば実力不足がそのまま死につながりかねん。やり方は集まってくれた生徒たちに一任している。熟練の冒険者もいるから話を聞くのも勉強になるだろう」
教員は告げると校舎近くのベンチに腰掛けました。
グラウンドに残ったのは優里と風里、そして幾人かの生徒たちです。
「えーっと……」
どうしようと優里は風里に振り向きますが、彼女はすることは決まってるとばかりに一歩前に出ます。
「――私は戦わないわ」
風里は言うと一番近い生徒に向かって斬りかかりました。
こうして彼らのパラミタでの生活が始まったのです。