イルミンスール魔法学校

　空京・桜の森公園。
　地祇、桜の森公園の精　さくら（さくらのもりこうえんのせい・さくら）が管理している桜の名所です。
　今年のお花見シーズンも無事に終わり、そろそろ夏の足音が聞こえてくる頃です。桜の木々は深い緑色の葉を夏の気配のする風に揺らしていました。

　お花見シーズンこそ恐ろしく混雑するこの公園ですが、シーズンオフはイベントごとでも無ければ静かなもので、家族連れや恋人たち、また学生たちの憩いの場として、穏やかにその役目を果たしています。
　今日もそんな、静かな一日のはずでした。

「ノリコ、遅いわね」
　さくらは、公園の入り口のひとつで待ちぼうけていました。
　今日は蒼空学園レクリエーション研究会（通称レク研）会長であるノリコ・ラージャードと、イベントの打ち合わせの約束をしているのですが、肝心のノリコがなかなか現れません。

「あら、さくらちゃん」

　とそこへ通りかかったのは、ノリコではなく桜坂　のの（さくらざか・のの）でした。
　ののは、ツァンダにある古いお屋敷の住人のひとりです。以前公園でイベントを行ったことがあり、その縁でさくらとは顔なじみでした。
「ののじゃない、どうしたの？」
「ちょっと買い物ついでに寄ったんだけど、パトリックとはぐれちゃってね」
　さくらの問いかけに、ののは大げさに肩を竦めました。パトリック・エイベル（ぱとりっく・えいべる）は、のののパートナーにして同居人です。
「パトリック？　ここからは出てきてないわよ」
「ありがと、探してみるわ。大丈夫」
　さくらにひらひらと手を振ると、ののはまた公園の中へ戻っていきました。
　ノリコはまだ現れません。
　こちらから探しに行こうか、と思って居ると。

「あら、さくらさん」
「ほんとだ。やっほー」

　また声を掛けられてさくらは振り向きます。が、やっぱりノリコではありません。
　やってきたのは、ヴァイシャリーでケーキ屋・パティシエール「薔薇の雫」を営む二人組、相沢かしことシェスティン・ユーハンソンでした。
　二人の後ろには、大量の荷物を持たされたニクラス・リヒターの姿もありました。こき使われているようです。
「こんにちは、かしこ、シェスティン。今日はどうしたの？」
「新作の材料の買い出しの帰りよ。一休みにね」
　かしこは、ちらりとニクラスの方を振り向くと、買い物袋を目で指して得意げに微笑みます。
「今年のクリスマス市もよろしくね」
「ええ、私たちも楽しみにして居ますわ」
　さくらの言葉にシェスティンが答えます。（かしこ達は、毎年桜の森公園で開かれるクリスマス市に出店しているのです）
　二人はさくらに手を振ると、ニクラスを連れて公園へ入っていきました。

「ごめんごめん、遅くなって！」

　と、ようやくノリコが現れました。うしろにもう一人、眼鏡の男性を連れています。
　遅い、とさくらは頬を膨らませます。
「ごめんね、スーさんが寝坊して」
　そう言ってノリコは、連れてきた男性の背中を突きました。
　彼はスカイ・スペーシア。ノリコと同じレク研の、中心メンバーのひとりです。
「で、早速なんだけど……」
　ノリコが鞄から資料を取り出そうとした、その時です。

　公園中が、まるで爆発コントでもしたかのような濛々たる煙に包まれました。
　しかし、音はありません。それどころか、公園の喧噪すら煙に吸い込まれる様に消えていきます。

　公園を訪れていた人々も、突然の出来事に騒然とします。

　煙は一瞬で公園を覆い尽くし、そして、一瞬で消えてしまいました。

「なんだったの、今のは……」

　煙が消えた後、そこには異様な光景が広がっていました。
　桜が――咲いています。
　それも、満開に。
　それだけではありません。空は紫色に染まっていて、子どもが描いた絵のようなお星様がいくつも浮かんでいます。
　人々は何が起こったのか理解出来ず、呆然と辺りを見渡しています。
　そこに――

『★ハッピーティータイム★』

　謎の声が空から降ってきました。
　女性の声のような、声変わりする前の男の子の声でもあるような、あるいは、ボイスチェンジャーで無理矢理女性の声にしたような、どこか違和感のある、けれど女性の声でした。
　声はどこからともなく公園中に響き渡ります。

『ヤァヤァ諸君★　この公園はボクらが占拠させて頂いたよ。元の世界に戻りたければ、ボクが用意したナゾを全て解き明かすことだね★』

　ぱちん、と指を鳴らす音がしたかと思うと、ばらばらと空から無数の紙が降ってきました。
　公園に訪れていた人々は戸惑いながらも、その紙を拾い上げます。
　ノートを広げたくらいの大きさの紙には無数のトランプマークの装飾が踊っていて、挑戦状、と子どもの落書きのような字体で書かれていました。そして、ナゾのマス目がたくさん描かれています。

『謎は公園中に仕掛けられている。早く解き明かさないと、元の世界に戻るための鍵は永遠に閉ざされるヨ★　さくらチャンの命もね』

　けたけたと笑い声が響きます。
「さくらちゃん？」
　つい先ほどまでさくらと一緒にいたノリコは、慌ててさくらが居たところに視線を向けます。しかし、そこにさくらの姿はありません。それどころか、先ほどノリコたちが入ってきた公園の入り口も、桜に埋め尽くされるように消えていました。

『最初の五つの謎を解けば、さくらチャンの居るところの鍵が手に入る。そこにある秘密の仕掛けを動かせば、楽しいティータイムはおしまいだ。サァ、制限時間は一時間★　ああ、この世界では武力の行使は一切禁止ダヨ。あと、申し訳ないがこの世界に電波は飛んでない。精々頑張ってくれ給へ。ハッピーティータイム★』

　ぢゃあね、と人を小馬鹿にしたような声がして、ぶつっ、と放送が切れる音がしました。

「どうなってますの？」
「謎を解け、って言ってたわよね」
　かしこ達は、降ってきた解答用紙を改めて覗き込んでいました。
　紙の上部には「挑戦状」と書かれて居ます。そして、紙の左半分には小さな正方形をいくつか組み合わせたブロックのようなマス目が、右半分には碁盤の目のようなマス目が描かれています。
　左半分のブロックの様なマス目にはひとつひとつ、１から５までの番号が振ってあります。
「どういうことだ、これは」
　ニクラスが難しい顔をします。が、多分あまり考えてはいないでしょう。荷物が重いのです。
「謎は公園中に、と仰っていましたわね。もしかしたらこれは解答用紙なのかもしれませんわ」
　シェスティンの瞳が光ります。
「そうね、きっとそうよ！」
　かしこも深く頷き、二人は公園内を調査するために走り出しました。――荷物番にニクラスを残して。

「ちょっと、どうなってるのよ！」
　謎の声を聞いたののは、パトリックの捜索を打ち切って走り出しました。もちろん、さくらと会った入り口へ向けて。
　しかしののが見つけたのは、消えた入り口だけでした。
「んもう、こんな時にパトリックはいないし！」
　ののは困り果てました。なぜならののは――時計を持っていないのです。携帯電話は、パトリックに持たせた鞄の中でした。時間が分かる物が何一つありません。
「制限時間は一時間って言われても――」
　腹時計に自信はありません。とにかくパトリックと合流しようとののが駆け出した、その時です。
　ごぉん、ごぉん、とけたたましい鐘の音が鳴り出しました。
　近くにこんな大きな鐘の音が鳴るような施設などなかったはず、そう思いながらののは音のする方に目を遣りました。すると。
　公園中央に立っていたシンボル、巨大な桜の木がありません。

　その代わりに、そこには、見上げるほど大きな時計塔が姿を現していたのです――


　公園内を訪れていたのは彼らだけではありません。
　花見時期ほどにぎゅうぎゅうでは無いとは言え、多くの人々が公園で思い思いのひとときを過ごしていました。
　そんな一般人であるヴォルフとクロノは、突然出現した時計塔の前で呆然としていました。
「なんだ、コレは」
「あからさまに怪しいよね……」
　ヴォルフたちは恐る恐る時計塔に近づきます。塔の本体は紫がかったピンク色をしています。そして上を見上げると、アンバランスなほど大きな文字盤がふたつ、本体を挟むように南向きと北向きについていて、ハートとスペードのマークが付いた針が二本、午後一時を指しています。
　六階建ての建物ほどの高さはあるでしょうか。公園内のどこに居てもその姿を見ることができるでしょう。
　ヴォルフとクロノのふたりは、時計塔の周りをぐるりと巡ってみましたが、入り口らしき扉などはみつかりません。
「ねえ、みてよヴォルフ……これ」
　しかし、クロノが何かに気づき、ヴォルフの服の裾を引きました。
　そこには３０センチ四方ほどの、不思議なくぼみがありました。内側が５×５のマス目にうっすらと区切られ、その周囲を縁取るように、赤・黒・黄色、三色で描かれたトランプの４つのマークが並んで居ます。
　さらにそのくぼみの周辺には精緻なレリーフが施されていました。
　彫られて居るのは、女の子、トランプの兵隊、帽子をかぶった男、時計を持った白ウサギ、ニヤリと笑った猫……不思議の国のアリスの一場面です。
「……なんだろう、これ？」


　一方、公園内の捜索に当たっていたかしことシェスティンは、怪しい箱を見つけていました。
　蓋には問題が刻まれています。曰く。
【Ｃ：テーブルの上にあって、お皿の下にあるもの、なーんだ？】
「なーんだ？　って、これが謎？」
「謎、というよりなぞなぞ、ですわね……」
「こんなの簡単よ、テーブルクロス！」
　かしこが自信たっぷりに答えます。すると。
　ぱんぱかぱーん。
　やる気の無いファンファーレが鳴って、ぱかりと箱の蓋が開きます。
　中には、テーブルクロス、と描かれたプレートが一枚入っていました。７つの正方形をつなぎ合わせたような形をしていて、一マスに一文字書き込まれています。
「この形、どこかで……？」
　かしこはプレートを取り上げると、頭上にハテナマークを浮かべました。
「きっと、これですわ」
　シェスティンがすっとかしこに一枚の紙を差し出します。そう、先ほど降ってきた挑戦状。その左側に描かれたマス目のひとつと、手元のプレートは全く同じ形をしています。
「ってことは、これとおんなじようなのがあと４つ、有るって事ね」
「探しましょう！」
「そうね。でも、この程度の謎なら一瞬よね！」
　かしこは得意げに笑って、シェスティンと共に次の箱を探しに向かうのでした。

　もちろん。調査に当たっているのは彼らだけではありません。
　たまたま公園を訪れていた契約者達も動き始めました。

　その結果、四つの箱が発見されました。
　それぞれの蓋にはこのような問題が刻まれています。

Ａ：狸の火消しの倅が言うには、「たせんたにひゅたうた」
Ｂ：（土＋衣＋筏−竹−イ）（米−八＋一＋倒−イ−至）
Ｄ：ＬＦＮＶＳＪ（Ａ→Ｚ）
Ｅ：Ａ■Ｄ＝と、＋■｝＝け、Ｗ■Ｒ＝い　のとき、　１■３、Ｓ■Ｆ、Ｆ■Ｈ、Ｐ■｛、Ｊ■Ｌ、Ｇ■Ｊ、Ｕ■Ｏ

　さあ、あなたは全ての謎を解き明かし、この終わらないお花見を終わらせる事が出来るでしょうか――？

　お久しぶりのノーマルシナリオです、常葉です。
　こんなに長いガイド初めて書いたわ！　ということで謎解きシナリオです！
　一応「謎解き」が主眼なのでジャンルをミステリーとしましたが、雰囲気はいつもの通りです。

　謎解きの為にルールがありますので、必ず最後までマスコメにお目通しをお願いします。

！答えが解っても、掲示板等に謎の答えを書き込むことは一切禁止です！
全ての人に謎解きを楽しんで頂くためご協力ください。大変お手数ですがお友達と協力する場合は、人目に付かない場での情報交換をお願いします。

●概要

　さて、本シナリオの目的は、公園に隠された謎を全て解き明かし、さくらを救出し、この謎に満ちた世界から脱出することです。
　さらに、「全ての」秘密を解き明かす事が出来れば犯人の正体も分かることでしょう。

　犯人の声明にもあったとおり、まずは五つの謎を解き明かし、さくらの解放を目指して下さい。
　五つのうち一つはかしこが解いてしまいましたので、残りは四つ。それも場所は解って居ますから、後は謎を解き明かすだけ。
　さくらの居場所は不明となっていますが、まあ、怪しいところは一カ所しかありませんね。
　（単に謎を解いただけでは扉は開きません。どうやって開けるかも考えて下さい）

　皆がバラバラに解いても進めません。バラバラに動いて居るＮＰＣや、他のプレイヤーとの連携も重要です。しかし、この謎の世界には電波が飛んでいないそうなので、携帯電話やＨＣでの情報交換ができません。
　謎が解けない、という方も是非、彼らが協力するために力を貸して上げてください。

　必要な情報は全てガイドに書いてありますと言いたいところですが、もう一つ必要な情報があります。
　それは、マスターページに掲載してある画像です。
　この画像がとっても重要ですので、必ずこちらの マスターページ をご覧の上ご参加くださいね！



●アクションのヒントとルール

　皆さんが解かなければならない謎・取るべき行動のヒントは以下の通りです。

・【Ａ：狸の火消しの倅が言うには、「たせんたにひゅたうた」】の答えは？
・【Ｂ：（土＋衣＋筏−竹−イ）（米−八＋一＋倒−イ−至）】の答えは？
・【Ｄ：ＬＦＮＶＳＪ（Ａ→Ｚ）】の答えは？
・【Ｅ：Ａ■Ｄ＝と、＋■｝＝け、Ｗ■Ｒ＝い　のとき、　１■３、Ｓ■Ｆ、Ｆ■Ｈ、Ｐ■｛、Ｊ■Ｌ、Ｇ■Ｊ、Ｕ■Ｏ】の答えは？
・謎を解くと手に入る１〜４の答えが書かれたプレートはどうする？
・クロノが見つけたくぼみは？
・ティータイムを止めるための「秘密の仕掛け」とは何？
・犯人の正体は？

　全ての謎の答えが揃わなければ脱出できませんので、掲示板等で役割分担をすることをお勧めします。
（ただし、謎の答えやヒントなどは書かないでください。１番やります、などの表明に留めてください）
　謎解きを諦めて伝達係に徹する場合や、そのほか謎ときに直接関わらないアクションを掛ける場合は、謎の答えの記入は不要ですし、自由にアクションを掛けられます。
　また、謎は解けたけど脱出・さくら救出に関わる活動には参加しないということも可能です（笑）。
　但し今回は、「犯人に加勢する」系アクションはほぼ不採用となりますのでご注意ください。

　アクションを掛ける上で重要なのは、
「１ＰＬにつき１つの謎にしか答えられない」
　ということです。
　例えば１番と２番の謎が解けたぞー、という場合でも、アクションに記入できるのはどちらか一つです。そして、その番号の謎に関わるアクションを掛けてください。
　また、全ての謎が解けた場合も、行動はひとつに絞って下さい。（さくらの居場所の扉が開けられそうだから救出する、犯人を確保に行く、など）

　さらにもう一つ、特別ルールを設けます。

「犯人が分かった人はアクションとは別に犯人の正体を書いてください」

　犯人を確保に行くアクションを掛けても勿論構いませんが、例えば「犯人は分かったけどどうも４番の謎を解く人が居なそうだ」等の場合も考えられますので、そういう場合はアクションの最後に、メインの行動とは別に犯人の正体も書いてください。
　行動はメインアクションの行動のみとなり、犯人確保に参加出来るわけではありませんが、一定数以上のＰＬが犯人の正体に気付いていた場合、犯人が正体を現します。
　また、リアクションの最後に犯人の正体が分かった方のお名前を紹介させて頂きます。
　（アクションの書き方がややこしいかも知れません。サンプルアクションの１をご参照下さい。）

　さあ、それでは楽しい謎解きを！

・謎は全て解けた！

・謎はだいぶ解けた！

・謎はちょっぴり解けた！