機甲虫に襲撃されたアルト・ロニアも、今では順調に復興しつつあります。
(※こちらの経緯についてはマスターシナリオ「機甲虫、襲来」と「アルト・ロニアの復興」を参照ください)
ですが、ここで問題が発生しました。カール・エンゲルマンという人物が、何者かに腕を刺されたのです。
カール・エンゲルマンはヨルク・ヴェーネルトの友人です。カールは遺物『花を象った石像』をヨルクの下に輸送する途中、姿の見えない何者かに右腕を刺されました。
幸いにも命に関わるような傷ではなかったので、カールはすぐに退院しました。
「相手の狙いが何なのか分からない。もしかしたら、無差別的な犯行という可能性もある」
カールの下を訪れたヨルクはそう告げると、しばし思案しました。
「セオリー通りに考えれば、花の石像を狙っての犯行になるんだろうけど……しかしなぁ……」
「それより、僕の心配はしてくれないんですかね、ヨルクさん」
カールは、考古学の学者を目指している青年です。時たまヨルクの手伝いをしており、二人はそこそこに仲の良い関係でした。
ヨルクはカールの右腕をぽんぽんと叩くと、笑顔で言いました。
「もう怪我は治ったんだからいいだろう。ほら、大丈夫大丈夫」
「ちょっと、怪我人に何してくれてるんですか! 怪我人だったんですよ!? もっと大事に扱って下さいよ!」
ヨルクは肩を竦めると、ポケットから強化ガラス製の容器を取り出しました。
強化ガラスの容器には、僅か1mm程度の金属片が納められていました。
これは、カールの腕から取り出された物です。カールが刺された箇所を病院で詳しく検査してみたところ、このような金属片が発見されたのです。
毒の類ではなかったのでカールは安心しましたが、ヨルクにとっては引っかかる物でした。
なぜならその金属片は、以前アルト・ロニアを襲った機甲虫の纏っていた装甲の一部のように思えたからです。
「さて、どうしたものか。こっちの能力じゃ分析しようにも出来ないし」
「シャンバラ教導団に頼ればいいのに」
ヨルクは首を横に振りました。
「シャンバラ教導団にはあまり頼らない方がいい。知らず知らずの内に取り込まれる可能性がある。……勿論、そういうのはシャンバラ教導団だけに限った話ではないけどね」
ヨルクの言葉に、カールは憤慨しました。
「だけど、このままじゃ手詰まりじゃないか!」
カールの気持ちは分からないでもありません。
と、その時でした。大廃都の地下迷宮を調べている調査団から緊急の連絡が入りました。
「大廃都の地下迷宮から、機甲虫の群れが湧き出ている……!?」
驚くべき事はそれだけではありませんでした。
調査団は新種の機甲虫を目撃した上、白い機晶姫の姿を見たと言い出したのです。
「白い機晶姫が表に出てきたという事か……!」
ヨルクに機甲虫の修理方法を教えたのは、白い機晶姫です。
白い機晶姫が機甲虫と何らかの関係を持っているのはまず間違いないでしょう。
「……分かった。策を考えてみるよ」
調査団の報告を受けたヨルクは、絶体絶命の状況だと自覚しつつも、これをチャンスと捉えました。
その理由は、2つあります。
1つ。機甲虫の発生地点が明確である。
前々回は、『大廃都のどこかから機甲虫が現れた』という曖昧な情報しかありませんでした。
しかし今回は、大廃都の地下迷宮から機甲虫が発生しているという情報を掴んでいます。
セオリー通りに考えれば、地下迷宮には機甲虫の巣があるはずです。
上手くやれば、巣を破壊し、機甲虫を根絶できるかもしれません。
2つ目。白い機晶姫は、滅多に表に出て来ません。
彼女が何を狙っているのかは分かりませんが、白い機晶姫が表舞台に出て来たという事は彼女を捕らえるチャンスです。
状況を整理したヨルクは、携帯電話を手にしました。
「あまり『彼ら』を頼りすぎるとまずい気もするが……四の五の言っていられる状況じゃないな」
ヨルクは三度、あなたの助けを求める事を決めたのでした。