イルミンスール魔法学校

　水ぬるむ春。

「ふあぁぁ……」
　ツァンダから少し離れた山に住む地祇、ツァンダ付近の山　カメリア（つぁんだふきんのやま・かめりあ）は目を覚ましました。

「む……眩しいのぅ……もう朝か……？」

　多くの友人達が山の頂上に造ってくれた神社風の社、そこが彼女の住処です。寝ぼけ眼をこすりつつ、カメリアは外に出ました。
　春眠暁を覚えず。朝とはいうものの、既に日は高く登っています。

「何しろ夕べはあまり……寝られなかったからのぅ……？」

　完全に油断していたカメリア。あくびをしながら社の階段を踏むその足元の異変に、彼女はまったく気付いていなかったのです。

「――？」

　その結果として、カメリアは階段で足を滑らせ――。
「何じゃ――」

　そのまま低い階段を転がり落ち――
「――こりゃ――」

　庭先を転げ回って白い塊に頭から突っ込みました。
「――あああぁぁぁ！？」

「――ぷはっ！！」
　カメリアがようやく白い塊から抜け出し、周囲を見渡した時、彼女はようやく気付いたのです。


「何じゃこりゃあああぁぁぁっ！？」


　水ぬるむ春の、一面の雪景色に。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆


　カメリアの山は、寝ている間に雪山になっていました。麓まで真っ白に積もった雪は、今の季節には降る筈のないものです。
「……要するに、雪の在庫を大量に抱え込んでしまい、他に投棄するアテもなく、気付いたらここに降らせていた……と」
　落ち着いたカメリアは神社の縁側に腰をかけています。寝起きのカメリアは、山いっぱいに積もった雪に気付かずに階段を滑り落ち、すっかり雪まみれになってしまったのです。
　そして濡れた髪を乾かしながらこの事件の犯人――ウィンター・ウィンターを問いただしていました。

「……面目ないでスノー」
　ウィンターはツァンダ近辺の季節『冬』を担当する雪の精霊です。
　その横で、『春』を担当する光の精霊、スプリング・スプリングはため息をつきました。
「つまるところ、不良在庫に帳簿隠匿に不法投棄……ひどい話でピョン。で……雪はあと、どれくらいあるのでピョン？」

「実は……で、スノー」
「……うわっ」

　物陰でウィンターが提示した雪の残量に、スプリングは驚きの声を上げます。

「自然に溶けるのを待っていたのでは、この山に春が来ないでピョンね……。
　……まぁ、雪の在庫の管理ミスくらいでは特に罰則はないけれど……しかたない、ここはひと肌脱いでやるピョン」
　スプリングは頭部のウサギ耳をぴくぴくとさせ、庭先をピョンピョンと跳ね回りました。
「この辺かな……っピョン」

　すると、スプリングの跳ねた地面の周辺の雪が、みるみる溶け始めたではありませんか。
「おお……これは……？」
　カメリアの驚きの声をよそに、スプリングは次々と跳ねていきます。
「すごいでスノー……」

「温かい……」
　カメリアは、溶けた雪どけ水に触れてみました。よく見ると雪の下の地面からお湯が湧き出ていて、ウィンターの積もらせた雪を溶かしているのです。
「これは……温泉じゃな……」

「ウィンター、どんどん雪を降らせるでピョン。温泉で次々に溶かしていけば数日で雪の在庫もなくなるでピョン。
　全部溶けたらこの温泉は私が元に戻してやるでピョン」
「わ、わかったでスノー！」

　スプリングに応じて、ウィンターはどんどん雪を降らせます。
　数分後には、雪山のあちこちに温泉が湧き出るようになっていました。

「ふー、終わったでピョン」
「この温泉は……入れるのかの？」
　カメリアの疑問に、スプリングは応えます。
「もちろんでピョン。私も最近疲れ気味だったから、これでしばらく休ませてもらうでピョン」
「ふむ……これだけの規模となると、儂らだけで使うのはもったいないのぅ……街の連中にも声を掛けるか……。
　儂の住処を使えば休憩所にもなるし……ちょっとした旅館風、じゃのぅ」
　カメリアの住処はその後も友人達が手を入れ、少しずつ増設されていました。
　携帯を取り出してあちこちににメールを打つカメリア。
　それを見たウィンターは、雪を降らせながら瞳を輝かせました。
「あ、それなら私がかまくらをたくさん作るでスノー！
　そうすれば個人でも家族でも使える温泉になるでスノー！！
　大浴場と個人用を作っていくでスノー！！」

「うんまぁ、その辺は好きにするでピョン。……さて」
　言うが早いか、スプリングは神社の縁側で服を脱ぎ始めてしまいます。
「……スノー？」
「おいスプリング、何をしておる？」
「何って……温泉に入るのでピョン。服を着たままお風呂に入るのは変でピョン？」
　当然のように言い放つスプリングに、カメリアは戸惑いました。
「いや、しかしじゃな……水着くらい着たら……これから人が来るというのに……男も女もそれ以外も……」
　すでにカメリアは混乱して何を言っているのか分かりません。

　しかし、スプリングはぴしゃりと言い放ちました。
「何を言っているでピョン！！　温泉に水着など邪道でピョン！
　さぁ、カメリアたちもとっとと脱ぐといいでピョン！！！」

「えーーーーーーっ！？」

　カメリアとウィンターの叫び声が、雪山に響き渡りました――。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆


　その頃、自称正義のヒーロー『正義マスク』こと、ブレイズ・ブラス（ぶれいず・ぶらす）は雪の降り積もる山奥に籠もり、物思いにふけっていました。

「……俺をあの名前で呼び、同じペンダントを持つあのジジィ……ヤツの正体が何であれ、そろそろ決着をつけねぇとな……」
　その視線は、彼の胸元に光るペンダントにあります。竜の顎と牙をかたどった金色のペンダント、『覇邪の紋章』。
　この世にふたつとない筈のそれと同じ物を、未来からの使者　フューチャーエックス（みらいからのししゃ・ふゅーちゃーえっくす）は持っているのです。

　そんなブレイズの近くでも雪が溶け、温泉が湧き出し始めました。

「……湯気か……白いな……」

　もくもくと沸き立つ湯気がブレイズの姿を隠し、やがて完全に覆っていくのでした。

　みなさんこんにちは、まるよしと申します。
　今回で１８本目のシナリオを担当いたします、よろしくお願いいたします。

　さて今回は、カメリアの山が突然雪山となった中で、のんびりと季節はずれの温泉を楽しもうというシナリオです。
　ですがただのんびりするだけではなく、場合によってはちょっとしたハプニングが……？
　雪を降らせているため気温は低く、そこに熱い温泉が出ていますので、突然噴き出した白い湯気で何も見えなくなることがあります。

　温泉がメインのシナリオですので、実性別を不明にしているＰＣの方は、注意してご参加ください。

　また今回は、募集人数２０人の少人数シナリオであることに加えて、スケジュールの都合上リアクション公開の日程を１週間ほど延長いたしますので、その旨ご了承下さい。大変申し訳ありません。

　今回は、以下のようにして楽しむことができます。

・温泉に入る。
　ウィンターが作ったかまくらのうち、山頂の特に大きい三つは大浴場とされ、それぞれ『男湯』『女湯』『混浴』に分かれています。原則として外見性別に従って入湯を許可されます。
　一応、入口に番台を設置しておりますので、外見性別に合わない温泉にかまくらに入ろうとすると、制止されます。番台は原則としてウィンターの分身です。
　不確定多数のＰＣとワイワイ楽しみたい場合はこちらがいいでしょう。
　また、スプリングとウィンターに頼めば、小さい温泉とかまくらを注文どおりに作ってくれますので、いわゆる家族風呂として利用することができます。ＭＣとＬＣ間、友人間の交流を楽しむことができます、グループアクション等で指定してください。特に男湯と女湯の区別はなく、自由に出入りできます。
　原則として、その家族風呂に入っているＰＣ以外は干渉できませんので、ハプニングに巻き込まれたくない方はこちらがいいでしょう。

　入りたい温泉を『男湯』『女湯』『混浴』『家族』としてアクション内で指定してください。
　また、それぞれの温泉で番台やノゾキ防止の警備につくこともできます。

・旅館に泊まる。
　今回、カメリアが自らの住処である神社を開放していますので、それを利用して簡易旅館を楽しむことができます。
　食事などは自分達で用意する必要がありますが、宿泊は無料です。あまり広くはありませんので収容人数には限界があります。
　また『一人で住むには広すぎる』程度の部屋数はありますが、鍵などはありませんので各部屋のプライバシーはないも同然ですのでご注意を。
　自分たちでワイワイやるも良し、もてなし側に回ってみるも良し、です。
　宴会や料理会、なんらかのイベントを開くこともできます。

・ハプニングを楽しむ。
　ところでこの山の地下には、ザナドゥ絡みの事件でやってきた魔神の宮殿の残骸が埋められています。いずれは浄化されていくものですが、この時点ではまだ影響があり、みなさんの入る温泉に特殊な成分が染み出してしまいます。
　ハプニングを望む方は、掲示板であいさつをお願いします。サイコロがゾロ目になった際、そのプレイヤー様のＰＣには、魔界の瘴気の影響が出ます。どのＰＣに影響を出させるかは、アクションで指定してください。複数ＰＣでも構いません。
　『１ゾロ』の場合……性別が逆転し、外見性別も変化します。（実性別をリアクション上で描写して欲しくない場合は、アクション内でその旨を指定してください）。
　『２ゾロ』の場合……任意の動物の姿（指定できます）になってしまいます（喋れなくなりますが、知性は人間のままです）。身体のサイズもその動物の平均サイズに変化します。
　『３ゾロ』の場合……突然、大人になります（外見年齢が増加し、肉体も変化します。何歳くらいになるのか指定できます）。
　『４ゾロ』の場合……突然、子供になります（外見年齢が減少し、肉体も変化します。年齢は指定出来ます。精神は基本的に元のままです）。
　『５ゾロ』の場合……性格が変調します。突然の妄想に襲われたり、突然甘えっ子になったり（自由に指定できます）します。
　『６ゾロ』の場合……ＰＣの身体に何かが起こります。自由に指定してください。（透明になる、触手が生える、巨大化する、など）。

　これらの影響は強いショック（肉体的、精神的）か、時間の経過により回復することがあります。
　また、この山を離れることで自然に回復しますので、このシナリオの終了と共に自動的に元に戻ります。
　これらの影響を他のシナリオ等に持ち越すことは出来ません。シナリオ内で元に戻ったという描写が行われなくとも同様です。

　また、『掲示板であいさつはしたいがハプニングは望まない』という場合、コメントに『ゾロ目効果なし』と書いてください。
　ゾロ目の数を見てから、次の書き込みやアクション内で『効果なし』を宣言することはできません（効果が現れてしまいます）のでご注意下さい。

・恋人といる時の雪って、特別な気分に浸れて僕は好きです。
　特別な気分に浸れます。

　武装・スキルはアクションを投稿時の装備がダイレクトに反映されますので、アクション内で装備やスキルを使う場合にはご注意ください。
　残念ながら他ＧＭ様のシナリオは基本的に参照できませんのでご了承下さい。キャラの関係などをアクション内で『〜ということがあったので』と説明がある場合はその範囲内で表現したいと思います。
　公序良俗に反するアクションは採用できませんのでご注意下さい。

　このシナリオに登場する可能性のあるＮＰＣは、まるよしの管理下にある以下のＮＰＣに限ります。
　アクションがかからなかった場合、リアクションに登場しないことはあります。
　各ＮＰＣ最近の詳細につきましては、お手数ですがマスターページをご参照下さい。

・ツァンダ付近の山　カメリア（地祇）……『温泉は魅力じゃが……裸はちょっとな。せっかくじゃ、水着でも着てあやつらの背中でも流してやろうかの……いつまでこんな遊びができるか、わからんしの』
・冬の精霊　ウィンター・ウィンター（精霊）……『かまくらいっぱい作るでスノー！！　終わったら神社でご飯を食べるでスノー！！』
・春の精霊　スプリング・スプリング（精霊）……『あー……疲れた……あ、別に無理に脱がしたりはしないでピョンよ……たぶん』
・ブレイズ・ブラス（シャンバラ人）……『……まずは警備をするか……それともあのジジイと決着つけるか……』
・未来からの使者　フューチャーエックス（未来人）……『ほう、温泉か。老骨にはたまらんなぁ』
・四葉　恋歌（地球人）……『温泉かぁ……懐かしいなぁ、日本にいる時、よく入ったっけ』
・アニー・サントアルク（強化人間）……（ツァンダの病院で入院中）
・狐の獣人　カガミ（獣人）……『たまには家族やお友達とのんびりするのもいいものですね』
・狸の獣人　フトリ（獣人）……『おいしい料理があるといいデブね。作るのも楽しそうデブ』
・バルログ　リッパー（悪魔）……『何だこれは』
・機晶姫　ウド（機晶姫）……『……』
・山羊　メェ（山羊）……『めへー』


　それでは、よろしくお願いいたします。

・温泉に入る。

・カメリアの神社に泊まる。

・恋人といる時の雪って、特別な気分に浸れて僕は好きです。