イルミンスール魔法学校

　―――西カナン。古代戦艦ルミナスヴァルキリー、観測室。

「め、女神イナンナ…そのような事は我々が―――」
　西カナンの領主ドン・マルドゥークは慌て寄りましたが、イナンナはこれを制して、
「いいのいいの、わたしにやらせて」
　と広げられた地図に向き直りながらに、ペンの蓋を口で甘噛んで外しました。
「あぁ……またそのような事を……」
「えぇと、北西部の海岸部、中央部の湖傍、東部の峠下……と♪」
　彼女が描いた丸印を覗きこんでから、「えぇ、合っています」と答えました。
　西カナンの地図上に描かれた赤い丸印、囲われた地域は民が復興作業を始めた地を示したものでした。

　生徒たちの働きにより、ルミナスヴァリキリー周辺地の再生はだいぶ進んでいます。それに伴い、イナンナも徐々に力が戻ってきているという実感があるといいます。
　より広範囲で大地の復興と再生を興す事で、女神の力をより多く取り戻そうと考えたマルドゥークは、療養を終えた民には『自らの地をもう一度、再生してはくれないか』と願い出たのでした。
　『ネルガル討伐を掲げてマルドゥークが兵を挙げたこと』、『イナンナが健在であること』そして『自分たちが大地の再生と復興を行うことがイナンナの力を取り戻すのに役立てる』ことを知った多くの民がこれに賛同し、今や１０を越える村や集落が砂の撤去作業に入ったといいます。

　マルドゥークが感慨深そうに地図を見下ろしていた所に、突然、兵の一人が部屋に飛び込んできました。
「マルドゥーク卿！　大変です！」
　兵士は息を整える間もなく言葉を続けます。
「西カナン各地でイナンナ様の女王像が破壊されているとの報告が！！」
「なんだと？！！」
　　カナン各地に祀られている女王像。それは各集落の広場や集落間をつなぐ道端にも設置されるなど、民の生活には根付いたものとなっているようで、民は一日に何度もこれらの像に向かって祈りを捧げているといいます。
　イナンナは今も神聖都キシュの神殿内に封印されたままです。それでも実体を得ているのは、どうにか思念体を女王像を媒体にする事でそれを成しているからでした。
　この事はネルガル側には漏れないよう徹底していたはずですが、各地の像が破壊されているとなれば―――
「バレてしまったという事か？！」
「いえ、報告では何も……しかし……」
「……ふぅむ」
「マルドゥーク、どっちにしてもマズいよ」
「えぇ。直ちに兵を向かわせましょう」
「あたしも行くわ」
　各地に散った民には避難勧告を、そして兵たちには『各地の像を護ること』との伝令がドン・マルドゥークより出されました。
　それに伴い、生徒たちにも正式に協力要請が出されたようです

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　―――闇瞑の洞窟。

「ちょっと！　どこに行くのよ！！」
　フリューネ・ロスヴァイセ（ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ）の呼びかけには応えずに、ジバルラは壁にかかった『牛鬼の鉄火面』を乱暴に手に取りました。
「外に出るつもり？！！」
「あぁそうだ、時間が無ぇんだよ、マルドゥークのせいでなぁ！！」
　――このままではザルバが……。
　今すぐにでも救出に向かいたいのですが、あいにく相棒であるドラゴンを亡くしたままではネルガル軍に抗する事さえもままなりません。
　今すぐにこれからただちに新たな相棒となる竜を探しに行くというのですが。
「待ちなさいよ！　この間、仲間が『龍の逝く穴』の場所を特定したの。ドラゴン探しならそこで―――」
「あの穴には大した竜は居ねぇよ。ま、もっとも奥までは入ってねぇけどな」
　彼はネルガルの監視下にありましたが、度々洞窟を抜け出しては相棒探しを行っていたようです。その際、『龍の逝く穴』には何度も訪れたという事でしたが……。
「……って、ちょっと待って……？　『龍の逝く穴』の場所、知ってたの？！」
「？　それがどうした？　退けよ！　つーか、テメェの足を貸しやがれ」
「足？」
「竜を貸せって言ってんだ」
「持ってるわけないでしょ！　そんなもの！」
「けっ、使えねぇ」
　カナンに棲息するドラゴンの９割は『龍の逝く穴』に居ると言われています。しかし『気性が荒過ぎる竜』や『重傷を負った竜』は穴から追い出されるようです。ジバルラはこれまでに、そういった竜を３体ほど見つけていたようです。
　谷にかかる『断頭の一本道』の先には『左腕と左翼を失った竜』が。
　身葉がナイフの様に堅くて鋭い『松毬の森』には『気性が荒過ぎる竜』が。
　そして『砂噴く間欠泉の山』には『産期を迎えた竜』が身を隠しているといいます。
「ちょっと！　身籠もった竜まで狙うつもり？」
「だから時間がねぇって言ってんだろ！　退け！」
「ダメよ。行かせる訳にはいかない」
　ネルガルを討つという目的が同じである以上、彼に死なれる事も、また彼がネルガルに捕まるという事態も避けなければなりません。　
　聞けばどの場所も進むだけでも困難で、ジバルラ自身、一度も竜の元へ辿り着けずに引き返してきたのだと言います。
「それなら余計に一人で行かせる訳にいかないわ！」
「だから時間が無ぇって言ってんだろうが！！」
「ここで待ってなさい！　同行してくれる生徒が居ないか聞いてくるから」
　洞窟内は携帯が繋がらない為、彼女は急いで引き返そうと彼に背を向けました。
「いい！　絶対に一人で行っちゃダメよ！　待ってるのよ！！」
　
　同じ頃、マルドゥークが各地の女王像を護るよう指示を出した所でした。
　一体何人が彼女の呼びかけに応えてくれるでしょうか。

　おはようございます。ゲームマスターの古戝正規です。

　『【カナン再生記】　砂蝕の大地に挑む勇者たち』の第２回です。
　本作は全３回を予定しております。他マスターに展開して頂いている【カナン再生記】シリーズ共々、お付き合い頂けると幸いです。

　さて、今回のガイドでは名前が出ただけの征服王でしたが、『ネルガル』は今回、西カナン中央部で兵の統括を行っています。
　神官兵にも像の破壊を命じ、彼らには双頭の怪犬『オルトロス』を帯同させるようです。
　彼に仕官する生徒は『各地の石像を破壊する』というアクションを行う事が可能ですが、
　今作からの仕官となる方は『大切な人（ＬＣ）を人質にする』必要があります
ので、一度彼への謁見を行うアクションも記載下さい。
　（ダブルアクション扱いには致しません）　
　また前作で称号を得た生徒は「ネルガルに同行し、既に西カナン入りを果たしています」ので、スタートから各地に散っていただいても構いません。
　
　次に、ジバルラの相棒探しについてです。相棒探しには『龍使いの鞭』を竜の首に巻きつける事で判定します。
　ジバルラの『龍使いの鞭』は、今は亡き相棒『ニビル』の首に巻いていたものでした。
　相棒の証しとして鞭を竜の首に巻く事は彼のこだわりであり、当然『ニビル』の首にも長い間、鞭を巻いていました。
　そのため鞭には『ニビル』の力が宿っており、他のドラゴンはこの『力』にことごとく反発したため、新たな相棒が見つからないでいたのです。
　つまり竜の首に『龍使いの鞭』を巻き、その竜がニビルの『力』に反発しない事が分かって始めて彼の相棒となり得るようです。

　残念ながら『龍の逝く穴』では相棒を見つける事が出来なかったジバルラが、今回目指す３カ所３体の竜についての補足は以下の通りです。　
　・地上５０ｍの位置にある『断頭の一本道』は、人がようやくすれ違える程の幅しかない岩の一本道です。
　　一本道を歩んでいると、谷間から『風渦の精』の群れが襲い掛かってきます。
　　体長は３０ｃｍ程で、その風貌は小さな竜巻に見えるそうです。
　　歩行者の体を群れで囲い、動きを封じた所で自身の風速を上げて首を狩りにくるといいます。
　　『左腕と左翼を失った竜』はその道の先にある高台に棲んでいて、口からは直径２ｍ程の火球を吐くようです。
　　ちなみにジバルラは一本道を抜ける事が出来ず、道の途中で火球の直撃により谷間に落下したという事です。

　・『松毬の森』の葉は殆どが枯れていますが、枝垂れたツルには、たくさんの実をつけています。
　　　松毬の実は身葉がナイフの様に堅くて鋭くなっています。
　　　森には『気性が荒過ぎる竜』が棲んでおり、侵入者を目視した途端に巨大な咆哮を発して威嚇してきます。
　　　その際に松毬が驚いて実を破裂させる為、侵入者はナイフのような身葉に身を切り刻まれてしまうそうです。
　　　ジバルラは竜の元に辿り着いたものの、竜と破裂する松毬に苦戦し、首に鞭を巻く事が出来ないまま退散しています。

　・『砂噴く間欠泉の山』は、水や蒸気の代わりに溜まった砂を噴き出す間欠泉が集まった地帯です。
　　　噴き出された砂によって砂山が形成され、『産期を迎えた竜』はそれらの砂の中に身を隠しているそうです。
　　　砂の中は非常に温かいため、卵を温めるのにも適していると言われています。
　　　砂中に竜を発見したものの、剥き出しの敵意と凶暴さの原因が身籠っている事にあると分かり、撤退したそうです。

　最後に『カナン再生記』開拓スレッドにて展開中の開拓企画ですが、完成した施設や建物についての詳細をリアクションに反映させる事はできません。ご了承下さい。

　今回は舞台が非常に散るのではないかと予想されます。
　要素も多いだけに個性的なアクションが集まると楽しみにしております。
　みなさんと一緒に【カナン再生記】の物語を紡いでゆきましょう。

・女王像を護る

・女王像を破壊する

・ジバルラの相棒探しにゆく