みなさん、こんばんは。
私の名前は四葉 恋歌(よつば・れんか)、ドレスも着ちゃうセブンティーンです。
18歳になりました。
今夜はクリスマスを前に、ちょっとしたイベントがあります。
私の父が興した貿易会社『ハッピークローバー』社が、地球から空京へと本社を移転することになりました。
その本社ビルが、このたび完成いたしました。
クリスマスも近い日程で、その落成式を兼ねて一般の方からも参加できるパーティが催される予定です。
私も社長の娘として着慣れないドレスなどを着て、お客様のおもてなしをしなくてはなりません。
それにしても、私と父はきっとパラミタで最も幸運な親子に違いありません。
研究者だった父が会社を興してまだ3年。
この短い期間でこんな立派な本社ビルを建てられるようになるなんて、幸運としか言いようがありません。
そう、私と父はとても幸運なんです。
けれど。
今夜のパーティで、私はどうしてもしなければならないことがあります。
だから私は、私が知っている、私を知っているコントラクターの皆さんにメールで連絡を取りました。
どうしても、今夜のうちに成功させなければいけないことのために。
☆
こんにちは、四葉 恋歌です。
今度『ハッピークローバー』社の本社ビル落成式パーティがあります。
その本社ビルの地下深くには、私のパートナー『アニー』が意識不明の状態で幽閉されています。
そこから、私のパートナーを救い出して欲しいんです。
そこは父、四葉 幸輝(よつば・こうき)の研究施設です。秘密裏の研究だから、様々なセキュリティ上のトラップが仕掛けられているでしょう。
また、私の動きを不穏に思っている父が、独自にコントラクターを雇い入れています。
だから、方法は問いません。
『ハッピークローバー』社の施設にいくら損害を与えようと、邪魔な社員や警備員などを実力で排除しようと一切構いません。
アニーを無事に救い出してくれるなら、私のガードをする必要もありません。
私の身はどうなっても特に気にする必要はありません。
どうか、彼女を救い出して下さい。
だけど会社の本社ビルに潜入して一人の人間を連れ出すのだから、これは犯罪行為です。
私には、父のようにお礼として差し上げることのできるお金や財産はありません。
だから、アニーを助けてくれるならば、私にできることは何でもします。
私が死んでしまうと、アニーを傷つけることになってしまいますので、そこだけは許して欲しいと思います。
それに私が感じるアニーの生命力が、どんどん弱くなっている気がするのです。時間は、あまりないのかも知れません。
だからどうか、お願いします。
私のパートナーを、アニーを助けてください。
☆
私は当日、本社ビルのパーティに参加しています。
あとは待つしかありません。私がお願いした皆さんが行動を起こしてくれるのを。
それに合わせて私も行動を開始します。
この時のために、私はパラミタで知り合いを増やしてきました。できるなら恋人のような、私のために必死になってくれる人を作りたかったのですが、それはできませんでした。もう仕方がありません。
このチャンスを逃したら、おそらく次はないのですから。
それでは当日、パーティでお会いしましょう。
私の名前は四葉 恋歌。
パラミタで一番ラッキーな、セブンティーンです。
18歳になりました。
☆
着々と落成式の準備が進む『ハッピークローバー』社、本社ビル。
遠くからそれを眺め、一人の老人――未来からの使者 フューチャーX(みらいからのししゃ・ふゅーちゃーえっくす)が不敵な笑みを浮かべるのでした。
「……ここまでは予定通りだな。だが、ここから予定通りにさせないのが、わしの仕事ってワケだ……」