空京の外れに、大きな公園があります。
丘になっているそこからは、空京の街が見渡せます。
その公園には、一昨年の春に地球の日本より、沢山の桜の木が寄贈されました。
麗らかな春の日。
「去年は殆ど咲かなかったが、今年は全て開花しそうだ」
空京のロイヤルガードの宿舎で、神楽崎優子はアレナ・ミセファヌスとパン作りをしていました。
春……といえば、皆で集まってパン、パーティを楽しむことが恒例になっており、今年も優子はパン作りに精を出しています。
「今年は野外の、桜満開の公園でパンパーティを行おうと思うんだ」
「はいっ。私も手伝います」
「ありがとう。今年は色々リクエストもあって……」
優子は友人達から届いたリクエストを記した紙を見て、眉を顰めました。
「なんだか勘違いした人がいるみたいなんだよな。けど、出来るだけ要望には応えたい」
パン類なら何でもリクエストOKと皆に伝えた優子ですが、届いたリクエストの中には『フライパン』『ジーパン』とか、食べるパンではない『パン』もありました。
「では、食べられない方は私が出来る限り用意します……。若葉分校の方からも、リクエスト沢山いただいているんですけれど、こちらも食べられないものばかりで……」
アレナのもとにも、若葉分校生のブラヌ・ラスダー達から、様々なパンのリクエストが届いていました。
天秤座のパン…とか、クマさんアップリケのパン…とか。
「変なものは集めなくていいからな。若葉分校生がしつこいようなら、ゼスタに相談して止めてもらえばいい」
「あ、はい。難しそうなら、ゼスタさんに相談してみますね」
アレナはリストを手に、食べられないパン類を買いに出かけました。
数日後。
「……というわけで、今年は空京の公園でパン、パーティをやるんです。皆さんも是非来てください……っ」
若葉分校に訪れたアレナは、ブラヌやゼスタをパーティに誘いました。
「ただ、リクエストのパン……のうち、えっと……着るもの、で良く分からないものとか、集められないものが沢山ありまして」
「うんそれなら、衣類は俺に任せろ! 十二星華ショップに白百合商会の仲……いやいや、知り合いが努めてるんだ。そいつらと衣類のパン類を持っていくぜ、現地で試着会とかして、生のものも作ってやるぜっ」
ブラヌが胸を張って言いました。
「ん? 良く分からないですけれど、ブラヌさんもパン作りするんですね。生パンといえば、私の生パンもリクエストにあったので当日作って持っていきますね!」
「おおーっ、期待してるぜーっ!!」
ブラヌはとても嬉しそうに拳を握りしめて喜んでいます。
「花見か……神楽崎のパン屋に、ブラヌ達のパン…屋の他に、出店も欲しいし、他にもなんか企画が合った方が盛り上がるよな」
ゼスタは少し考えた後、こう提案しました。
「借りパン食い競争なんてどうだ? パンのリクエストが書かれたカードを、桜パンに挿して吊るすんだ。参加者は、カードに書かれたパン…を持って、ゴールする。その順位を競う競技ってわけだ」
「面白そうです。優子さんに話しておきますね。頑張って沢山のパン…、集めませんと……!」
「俺も協力するぜ。その代り、当日アレナチャンは俺の屋台手伝ってな。パンダの着ぐるみや、パンダパーカー着て、桜餅や笹団子売る『桜茶屋』やろうぜ。
……あと、ちと話したいこともあるし」
「はい」
返事をした後、アレナは少し戸惑いながら小さな声でゼスタにこう言いました。
「私も、ゼスタさんと……ちょっとお話……したいです」