《工場(ファクトリー)》に攻め寄せた蛮族たちは、黒装束に黒い面をつけた者たちに操られていた。極めて俊敏で身軽な『黒面』たちに対して遺跡守備部隊は善戦したが、結果は消耗戦の末の日没ドロー、というところに終わった。
「『黒面』は蹴りを中心とした体術と、投げナイフによる攻撃が得意のようだ。身を隠す能力にも長けているし、非常識に高レベルなローグだと思っておけば、間違いはないだろう。あのスピードを削がんと、太刀打ちするのは難しいな」
現地指揮官の林偉(りん い)は言う。なにしろ、訓練を積んだ教導団の生徒たちをもってしても、ようやくとらえられるかどうか、という身軽さとスピードなのだ。人数は20人ほど、まともに相手をすれば楽な戦いにはなりそうにない。
「蛮族の方は、今回の戦闘でかなり数を減らすことが出来たはずだ。『黒面』の連中がどこから蛮族を連れて来ているか知らんが、無尽蔵じゃあるまい。次はこっちからも仕掛けるぞ」
『黒面』の目的が遺跡の中に眠る遺失技術なら、遺跡から運び出されるものがあれば狙って来るだろう、と林は読んだ。
「奴らは小さなグループに分かれて森の中に潜んでいるようだ。だから、餌をまいておびき出す。『白騎士』が入手した、破壊された量産型機晶姫を本校に運ばなきゃならんのだが、それの安全確保を兼ねて、空箱を運ぶ囮の偽輸送隊を仕立て、襲撃して来たところを逆に叩こう」
ただし、この作戦が実行されれば、樹海の内部に戦力を配置しなくてはならないため、遺跡の周辺はその分手薄になる。それを敵が衝いて来る可能性も捨てきれない。
一方、技術科主任教官楊明花(やん みんほあ)を中心とした遺跡探索隊の方だが、『白騎士』に協力する生徒たちが、量産型機晶姫の残骸を入手。一方、李鵬悠(り ふぉんよう)ら風紀委員は《工場》の中枢と見られる区画に迫ったが、異常に守りが固く攻略を断念した。そして、明花は、奇妙な装置を装着して能力を増強した量産型機晶姫を発見した。
「あの装置、あれは絶対に手に入れたいわ!」
興奮気味に話す明花だったが、《工場》内の防衛システムを無力化するために、風紀委員たちが発見した中枢部に続く通路に戦力を集中して先に攻略することにし、戦力立て直しのために一旦《工場》の外に戻った。
「戦力を集中するということは、風紀委員も『白騎士』も、他の生徒たちもみんな一緒に戦うっていうことですよね……。今の状態で、はたして皆で力をあわせることが出来るんでしょうか……?」
深山楓(みやま かえで)は、明花の考えを聞いて不安そうに言った。楓は量産型機晶姫の残骸を本校に持ち帰るため、次回の《工場》の攻略には参加しない。
「次は敵を突破して工場の中枢に迫るための戦いになるので、私が行っても足手まといになるだけですから……。樹海の中で蛮族や『黒面』に遭遇するといけないので、何人か一緒に来てくれる人がいると嬉しいんですけど。それから、ネージュは衛生科の他の人たちと樹海に残ることになったので、よろしくお願いします」
《工場》の探索の間に親しくなった生徒たちに、楓は頭を下げた。
遺跡の中の敵に修復の時間を与えないため、《工場》中枢区画の攻略は明花の指揮のもと、2回目の探索から日を置かずに開始されることになった。探索に参加した生徒が作った地図によれば、中枢区画は《工場》のかなり奥の方に位置しており、量産型機晶姫や円盤の修理が行われている区画の場所がまだ不明なため、中枢区画の前で戦闘になった場合、後方にも敵が現れる可能性がある。前回まで以上に熾烈な戦いが繰り広げられることになるかも知れない。それと同時に、風紀委員と『白騎士』の手柄争いも激化する可能性がある。
はたして、生徒たちは、《工場》に眠るものと相まみえることが出来るのだろうか。そして、そのことは、彼らに何をもたらすのだろうか。