「うきゃ――――!」
イスミンミール魔法学校内の実験棟から悲鳴が聞こえます。
それと共に爆発が発生し、実験室の半分が破砕しました。
棟の一室分の破片が風に乗って降り落ちる中。
声の発信者である煤で汚れた黒ローブを着た小柄な魔女、ディティクト・ノワールは屋根が吹き飛んですっかり青空教室となった建物内で、大きな目を見開いて腰を抜かしています。
纏まりの無い肩までの黒髪を揺らして尻餅をつく彼女の眼前にあるのは十個の魔法陣。直径二メートルほどの円が幾つも光輝いています。
さらに、それら一つ一つの中心に全長三メートルの物体が起立しています。
「亜、…………阿……ア……」
それは声のようで声ではない、軋みの音を波立てるゴーレムです。
人間の背丈を優に超える無機物の固まりがのろのろと動き出しています。
ディティクトは驚きの視線で辺りを見渡し、
「ど、どうしよう。この子たち暴走しちゃった!? だ、誰か止めて、止めてくださ――い!!」
ゴーレムが立てる轟音に負けないくらいの声が、細身の彼女の口から周辺にまき散らされます。
それに関することなく彼女の力により精製されたゴーレムは、それぞれが別々の方向へ歩きだしていきます。
このままでは危険な状態に陥る可能性が大きくなります。
何故なら、あるゴーレムは魔法薬庫へ、また、あるゴーレムは校長室、そしてとあるゴーレムはカフェテラスにへ向かっているからです。
これら一体一体は、破砕した棟の破片や周辺にある瓦礫、木片などのガラクタを寄せ集めて固めた急造品です。
魔法薬と反応する薬品や火薬なども部品の一部になっている可能性があります。
魔法薬庫に向かうのも、同一存在をより取り込もうとしてのことで、進路変更が利きません。
足取りはゆっくりと、しかし確実な進行を続けています。
もし薬品庫に侵入され、新たな薬品を取り込みでもしたらどんな反応を起こすか。
何が起きるのかは正確には解りませんがロクな事にならないのは確かです。
ゴーレム等は道を違うことなくその場所へ向かっています。
特に校長室へ向かう個体は、材質の関係故か他と比べて一回りほど巨大で全長五メートルに達しています。静止させず放っておけば、行き先で待っている結果は想像できるでしょう。
加えて、
「あ、……ひう……」
ディティクトは半壊した棟内に取り残されたままです。
起伏の無い小さな体を震わせ、涙を眼に浮かべたまま動けないでいます。
魔女としてそこまで時を経ていない彼女では仕方ありませんが、このままでは有事の際確実に巻き込まれるでしょう。
大惨事を迎える前に解決しなければ危険です。
ゴーレム自体の硬度はかなりのモノですが、幸いにも構成が甘いので何度も打ちつければ破壊できる筈です。
さあ、貴方たちは突然の事件にどういった対処を行いますか。