※前回のあらすじ
参ノ島で脱獄に失敗した結果、ナオシ達は浮遊島の犯罪者が収容される監獄島へと収容されてしまいました。
しかしそこで待ち受けていたのはミサキガラスとタタリを名乗る謎の存在の襲撃。
他の囚人達を血祭りに挙げたタタリは、ナオシ達を牢から出しゲームと称して追い掛け回します。
一方、脱出したモリ・ヤ達の話を聞き、ナオシの妹であるオミ・ナが救助に来ます。
しかし何とか脱出は出来たものの、ナオシは重傷を負ってしまいます。
意識の戻らない中、弐ノ島に逃げ込んだ一行は、オミ・ナから過去にあった出来事を聞くのでした。
――弐ノ島。
監獄島から逃げ出し、数日が経過しました。
しかし傷の深さのせいか、部下たちが付きっ切りで看病していますがナオシの目は覚めません。
その間コントラクター達やモリ・ヤはオミ・ナ達の集落で世話になっていました。
これからどうするべきか、どう行動するべきか。答えが見つからずもどかしい中時間だけが過ぎていきます。
――ある日の夜、オミ・ナの部屋。
部屋にはオミ・ナとモリ・ヤが居ました。
モリ・ヤはオミ・ナに呼び出され、『ナオシと同行して起こった出来事を話してほしい』と言われたのです。
「話す事は構わないが……こっちもそんなに長くいたわけではないから詳しくは話せないぞ?」
「それでいいよ。一体何があったかを知りたいんでね」
そう言われたモリ・ヤは「わかった」と頷くと語り始めます。
偶々通りかかった所で魔物に襲われている船を助けた事、密漁の罪で捕まり纏めて拘束された事、参ノ島脱獄の事等々……
「――とまぁ、知っている事はこれくらいだな」
一通り語り終え、モリ・ヤが一息吐きます。
「成程ねぇ。兄貴、戦力にするつもりだったのか……」
「そう言っていたな。それで拉致という方法を取るのは正直どうかと思うが」
「まぁ、その辺りは兄貴らしいんだけどねぇ……」
話を聞き、何やら思案するような表情をしていたオミ・ナがモリ・ヤの目を見据えます。
「聞きたいんだけど、モリ・ヤの目から見てあの地上の人ら――コントラクターってのは戦力になると思うかい?」
オミ・ナの言葉にモリ・ヤは腕を組み、少し考えてから口を開きます。
「こっちも全員を見ていないからわからないが、丸腰だというのに武装した傭兵に突っ込んだり、躊躇いもせず雲海に飛び込んだりと度胸はあることは確かだろうな。実力もそこいらの荒くれ共連れてくるより遥かにあるだろう」
その言葉に「そっか……」と再度オミ・ナは思案する表情になります。
「なら余計にあの人らを失うわけにはいかないね」
「……どういうことだ?」
「今ね、結構厄介な事になってるんだよ」
「厄介な事?」
「ああ、実はあの人ら以外にも地上から、多分コントラクターの人が来ているらしいんだけどね……」
そう前置きしてからオミ・ナが話したのは、つい先日『コト・サカを殺害しマフツノカガミを奪ったのは地上人である』というニュースが流れたという事でした。
「おまけにモノ・ヌシの殺害も関わってるんじゃないか、って煽ってたね」
「やられたな……それもクク・ノ・チが関わってると?」
「勿論。『われわれはきみたちに対し宣戦布告も辞さない』、だとさ。格好良すぎて反吐が出るね」
嫌悪感を隠そうともせず顔を顰めてオミ・ナが吐き捨てます。
「状況は?」
「肆は勿論、壱、伍ノ島は地上の人らを敵とみなしてるね。うちや参の太守は今の所表だって何か言っているわけじゃないけど、あのニュース見る限りじゃ何処にも行けやしないねぇ――そ・こ・でぇ……モリ・ヤの出番ってわけよ」
ニヤリとオミ・ナが口の端を歪めてモリ・ヤの肩をポン、と叩きます。
「ちょーっとばかしさ、コントラクターの人連れて雲海で時間潰してきて」
「……すまん、色々と説明してくれ」
「あの人らをうちで匿うにしても、安全とは言い切れないからね。これで懸賞金なんか出たら釣られてホイホイと差し出す馬鹿がうちに居ないとも限らないんだよ、残念ながらね。だからって今すぐあの野郎の所殴りこもうにも、兄貴はあの様だし準備ができていない。ちょっと時間が必要なのさ。何処かの島に行くより、雲海の方がまだ安全かもしれないからね。モリ・ヤの船はもう動かせるんだろう?」
オミ・ナの問いにモリ・ヤは「まぁ、な」と頷きます。
「でもそれならそっちの船の方が安全じゃないか? こっちはあくまでも漁船だ。襲われたら一溜りもないぞ?」
「申し訳ないんだけど、こっちはこっちでちょっとやる事があってね。あまり大人数で動けないんだ」
「事情は……話せないようだな」
「すまないね。それともう一つ。できるなら漁で金も稼いでもらいたい」
「金も?」
「ああ。兄貴の容体なんだけど……こっちで何とかするのもちょっと限界なんだ。医者に診せるにも普通の医者は事情が事情だから診せられない。となると金次第で何とかしてくれるヤミ医者に頼る必要があるんでね」
「わかった。何とかしよう」
「後この事はあの人らには話さないでおいてもらいたいんだ。あの人らの事だ。この事を知ったら突っ走る可能性が高いからね。準備を整えないと、何もかもが終わる」
その言葉に思い当たる節でもあるのか、唸りつつモリ・ヤが頷く。
「……それもそうだな。しかし一体なんと言って船に乗せればいいんだ?」
「ああ、それならあたしに任せておいてよ」
そう言ってオミ・ナはけらけらと笑いました。それを見て、モリ・ヤは何か嫌な予感がしました。
――それから少し後。オミ・ナはコントラクターを集め言い放ちました。
「お前ら、明日から漁に行って来い」
「「「突然何で!?」」」
「うちだって慈善事業じゃないんだよ! タダメシ食ってないで働いて銭入れろ!」
「――強引にも程がある」
その様子を見て、モリ・ヤは頭を抱えつつ『ああいう点は兄妹なのかもしれん』と思うのでした。
――一方。
ウヅ・キは一人、誰もいない部屋に居ました。
「……どうしよう」
ウヅ・キは手首に装着されている腕輪を見つめ、呟きます。これは参ノ島の傭兵として支給された、傭兵同士で連絡を取る事が出来る代物です。
この腕輪を使えば、ウヅ・キの仲間である参ノ島の傭兵達に連絡を取る事が出来ます。
「……オミ・ナさんの話が本当なら、このままにするわけにはいかない。けど私達だけじゃ足りない……」
ウヅ・キは悩んでいました。この腕輪を使い、連絡を取れば手を貸してもらえるかもしれません。
しかし、まず仲間達にこの話を信じてもらえるだけの証拠がありません。その場合、連絡を取った事で他の面々を窮地に追いやるかもしれません。
その事を考えると、この腕輪を使う勇気が出ないのです。
「……けど、私もやらなきゃ」
ウヅ・キは覚悟を決めたようにそう呟きました。