シャンバラ教導団

「このままじゃ……このままじゃいけないっ！」
　拳を握りしめ、百合園女学院校長・桜井静香（さくらい・しずか）は決意しました。
　考えてみれば、パラミタに来てからこっち、自分の校長という肩書きは名ばかりのような気がします。
　学校はおろか自分の生活も、パートナーであり百合園の事実的な設立者ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）に握られっぱなし。嫌じゃないけど、可愛い服を取っかえ引っかえされて、まるで着せ替え人形、というよりラズィーヤは本心からそう思っているのでは？
　とはいえこの状況、仕方がないのです。常日頃から悩み多き乙女である静香には、ラズィーヤには逆らえない理由があるのです。自分どころか家族まで巻き込むことになる、大きな理由が……。
　ですが、パラミタで生活するうちに、学生達の情熱あふれる行動に影響されたのでしょう、静香にも一つ思いついたことがありました。そんなとき、この話が来たのでした。

「船上チャリティー・オークション？」
　ヴァイシャリー湖で採れる魚介類が名物のレストラン＜湖の畔＞で、静香は目をぱちくりさせてフォークを操る手を止めました。
　彼女の向かいの席に座っているのは、金髪碧眼、垂れ目を除くと典型的な優男です。フェルナンと名乗るヴァイシャリー育ちの彼のことは、静香もパーティーで何度か見かけた覚えがあります。
「ええ。ヴァイシャリーは今、観光シーズンに入っています。湖を巡る遊覧船ツアーも頻繁に催されますね」
「うん」
「お互いにとって、いい話だと思うのですが。勿論、上手くいったら相応の報酬は別途ご用意します」
　彼の目的は、ヴァイシャリー湖に浮かぶ小さな無人島を探索すること。
　入手した情報によると、そこには古代シャンバラ文明の残した遺跡などがある可能性があるそうです。彼は、船を一隻借り切ってそこに行きたいのだそうです。
「でも、こんな近くに遺跡があったら、見付かってそうだけどなぁ」
「今まで島が小さすぎて本格的に探索されなかったようなんですよ」
　外周を回ってもせいぜい４、５キロメートル。砂浜と草原、森林帯で構成されるごくごく変哲のない島のように見えるそうです。
「とはいえ徒労に終わる可能性も高い。船代を無駄にするわけにはいきませんからね。百合園のお嬢様の避暑と観光を兼ねて参加料を取るなら、財布にも見た目にも素敵です。貴女にも乗っていただいて、人を集めていただきたいと思いまして」
　その代わりが静香主催という名目のチャリティー・オークション。寄付先は──当の桜井静香です。フェルナンは独自の調査により、彼女が時々、お昼に焼きそばパンと具なしコッペパンのどちらを選ぶかで迷っているという情報を掴んでいました。
　勿論参加者に静香が寄付先であることは秘密で、表向きは百合園女学院とヴァイシャリーの観光資源への投資ですが。
「でも、どうしてそんなに親切にしてくれるの？」
「私のパートナーも、百合園女学院でお世話になっていますからね。同郷の貴方を放っておけないだけです。それに、オークションの品はご自身で用意していただくつもりですし」
「そっか、ゆるスターの着ぐるみとか作ってみたらいいのかな」
　彼女は誰にも相談することなくフェルナンの案に乗り、そして船は出航の日を迎えました。


　──白鳥を象った、というよりスワンボートそっくりのガレー船。ヴァイシャリー湖で観光専門の船舶会社を運営する、白鳥の着ぐるみ姿のゆる一族のものです。
　船長は勿論、船員、漕ぎ手まで白鳥ゆる族が務めます。
　船の中身は客船のようで、シャワーの付いた客室の他に、食堂やラウンジも用意されています。この船でしか食べられない、特別なお店＜越前屋＞も入っているとかで、集まった客の中には名物・手羽先入り焼きビーフンだけが目当ての人までいます。
　ただ、湖には海賊ならぬ湖賊もたまに出るらしく、カタパルトやバリスタが搭載されており、ただの観光客船ではないようです。
「よし、行こう！」
　出発の朝、静香は元気よく乗り込みました。ですが、乗り込んだ生徒達の中には、仮面を付けた怪しげな貴婦人も混じっていました。
「その仮面は、舞踏会用ですか？」
「静香さ……いえ、校長主催のチャリティ・オークションがありますわよね？　オークションに顔を出して参加するのは恥ずかしいですもの」
　

　さて、どんな船旅になるのでしょうか？

　百合園女学院、ヴァイシャリー湖での冒険シナリオです。
　今回は１話ごと、全３話のシナリオとなっています。第１話は出航から島に着くまでの一泊二日の湖観光のお話です。
　２話は島に到着後の避暑と探索を予定しています。
　各話はストーリー上繋がっていますが、出来事に関しては独立しているため、どの話から参加されても、逆に２話だけ参加というようなかたちでも、大丈夫です。

　また、ヴァイシャリー湖上の観光（或いはお宝）を目的とした船旅のため、特に学校や男女の別での行動制限はありません。
　ただ、男子と女子では客室が別れており、相互の夜間の行き来は禁止になっています。

・パートナーと夏休み

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