すっかり秋が深まったここイルミンスール魔法学校。
「さぁ、芸術の秋だ!」とばかりに、イルミンスールでも大展覧会を開催の予定。
芸術の得意な生徒達の作品を一堂に集めての展示の機会――はじめはそんなごくごくまっとうなイベントだったはずなのですが……。
「どうせやるならどーんと、派手にやりなさぁ〜い。一番でなければ面白くないわぁ〜」
気楽に放たれた校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)のひと言でひっくり返りました。
開催準備に当たっていた実行委員の教師と生徒は上へ下への大騒ぎ。
過去に在籍していた生徒の物から、教師の描いた物、果ては美術室の奥で保管されていた名画まで、イルミンスールに存在しているそれこそ「芸術」と名の付くあらゆる作品が講堂に大集合しました。
準備の進む講堂を訪れたエリザベートは溢れかえる作品の山を見て満足そうな様子。そこへ、一人の女子生徒が近づきました。小柄で、柔らかそうなクセッ毛と、大きな瞳が印象的です。
「どうですか校長先生?」
「悪くないですよぉ〜。でも、ここまで来たらもうひとつ、決め手が欲しいところですねぇ〜」
「なるほど……例えば『彼女と猫の四季』のような、ですか?」
その言葉に、エリザベートがニヤリと笑います。
「それは面白いですねぇ〜」
講堂にいた一同がギクリと凍り付きました。
『彼女と猫の四季』とはいわくつきの一連の絵のシリーズのことです。
かつて売れない絵描きが、死の間際でこの世に呪いをかけながら描かれた、とも。
シリーズを一カ所に集めると、幽霊を呼び出す、とも。
いや違う、あの絵はそもそもからこの世の物ではないのだ、とも。
真贋様々な噂のつきまとう、まさにいわくの一品。その分確かに、話題性なら充分です。
「でも、校長、巷では美術品を狙った怪盗による被害の報告も聞こえてきております。これ以上大がかりにするとリスクが……」
実行委員の一人がエリザベートを諦めさせようとしますが、
「何を言っているですかぁ〜? 魔術の高みを目指すイルミンスールの生徒が、そんな弱腰では困りますねぇ〜」
ちっとも聞く耳を持たないようです。
「さっきの生徒を見習いなさ〜い……そう言えばもういなくなってますねぇ〜。どこに行ったのかしらぁ〜」
絵の提案をした女子生徒は忽然と消えてしまっていました。
「さ、さぁ。そもそも実行委員の生徒でも無いようでしたが……」
実行委員も困惑顔です。
「おかしな話ですねぇ〜」
『彼女と猫の四季』を所蔵しているのは空京に居を構える三家の資産家、マーチン家、ターナー家、クーパー家。
結局、実行委員数名が絵を借り受けに出かけていったのですが――
返ってきた全員はすっかり意気消沈。
中には全身怪我だらけの者までいる始末。
訳を聞けばそれぞれに貸し出しのためのテストを出されたものの、見事に解けなかったというではありませんか。
もうエリザベートは引っ込みません。
「だらしない話ですぅ〜。誰でもいいから『彼女と猫の四季』を借りてくるですぅ〜!」
全校生徒に向かって緊急の「お触れ」が発せられました。
ちなみにそれぞれの家を訪れた実行委員達の感想は以下の通り。
・マーチン家
包帯でグルグル巻きの実行委員は悔しそうに語ります。
「『おう。そいつを倒して来れたら貸してやるよ』って言われてさ、現れたのはでっかい大木製のウッドゴーレムさ。……空京のど真ん中じゃなければ派手に燃やしてやったのに! せめてもっと人数がいればなぁ」
・ターナー家
松葉杖をつき、目に涙をいっぱいに溜めた実行委員は語ります。
「『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これな〜んだ?』だそうです……何だったんですか、あれは何だったんですか!?」
・クーパー家
ここを訪れたという実行委員に怪我はありません。
しかし、一際困惑顔をしています。
「あの……テストを出されるっていうか……いや、ちゃんと人はいましたよ? でも言葉が通じてなくて……その、そもそもコミュニケーションがとれなかったんですけど……僕はどうしたら良かったんでしょうか?」
さぁ、皆さんの体力を、知恵をフル動員して、無事に三家から絵を借り受け、大展覧会を成功へ導いてください!