鏖殺寺院との戦闘で一部校舎等にも被害が出たシャンバラ教導団本校ですが、それでも授業は行われています。戦闘に巻き込まれて休講が相次いだため、これ以上休むと、授業日数が足らない科目が出る可能性があるからです。
これから行われるのは、家庭科の調理実習です。
しかし、教導団の調理実習ですので、内容も実戦に役立つよう、調理室を使うのではなく、屋外で食事を作る野外炊さんの訓練となります。しかも、
「いや、先日の戦いで、食料庫にも若干被害が出てね。主食の米と小麦粉や乾燥の麺類、調味料は充分あるんだけど、主菜副菜に使える食材が不足している。その、不足している食材の調達からやってもらいたいんだ」
と、教導団の食生活を切り盛りする給養部隊の陳教官から、食材調達を実習に含める、という指示が出ています。
「本校の周囲は岩場と低木だけど、ちょっと下れば森林地帯になって、そこには小動物も居るし、山菜や野生の果物なんかも取れる。川で魚を釣って使ってもいいよ。ただ、山羊とノボリゴイには気をつけてね」
「ノボリゴイ? 鯉のぼりじゃないんですか?」
日系の生徒の質問に、陳教官は大真面目で首を振ります。
「いや、本当に滝を登る力がある、鯉に似た魚が居るんだよ。白身で美味いんだけど、急流に住んでる上に体長50cm以上あってものすごく力が強いから、捕るのが大変でね」
「じゃあ、山羊は?」
「大きな四本角を持つ、気の荒い大型のやつが岩場に群れで住んでる。縄張り意識が強くて、下手に縄張りに入ると群れ全体で襲い掛かってくるから注意ね」
捕まえればこいつも食べられるけどね、と陳教官は言います。
「メニューは、主食、主菜、副菜とデザートのうちどちらか一つ、それに汁物。何を作るかは調達された材料にもよるから、品数さえ守れば、後は君たちの自由だ。さっきも言った通り、主食と調味料はたいがいのものが食料庫にあると思ってもらっていいよ。調理は演習場でやるから、水も水場の水が使える。道具は、野外炊具は扱いに専門的な知識が必要だから、普通の鍋やフライパン、飯ごう、ダッチオーブン、バーベキュー用のコンロや金網、鉄板……とまあ、普通にキャンプをやる時の道具を使って調理すると考えてくれ。7、8人で一つの班になってやってもらうことになるけど、パートナーとは原則として一緒の班、他に友達同士で同じ班になりたければ、申し出てくれれば考慮するからね」
そして最後に、陳教官は生徒たちを見回しました。
「安全を確保するために、狩りや採集に向かう生徒は実習の日の夜が明けてから出発し、日没まで調理が終了するようにしてくれ。出来た料理は、僕がチェックをして、特級、一級、二級、不可の評価をするが、日没までに調理が終了しない班は評価不可能として不可をつけるので、時間配分には気をつけるように。不可になった生徒には、補習がわりに一週間、給養部隊の下働きをしてもらうから、不正や他の班の妨害、ふざけて毒料理を作るなどの行為は厳に謹んでもらいたい。健全な精神は健全な肉体に宿る。そして、その健全な肉体を支えるのは日々の食事だと言うことを忘れず、真剣に取り組んで欲しい。以上!」
なお、この調理実習は、転校を考える生徒向けのオープンスクールとして、他校生の参加を認めることになっています。参加の条件は教導団の生徒と同じですので、腕に自信のある他校生の参加を期待する、と教導団の広報は言っています。