空京郊外。
空は高く、空気は澄み、まさに秋晴れ。
そんな中、商人のタノベさんは鄙びた一軒の日本家屋の前で嬉しそうに腕組みしていました。
日本家屋の周りは点々と民家があるだけで、だいぶ空京の街とは雰囲気が違います。
この空京郊外にある村を発展させてほしいと村長に頼まれ、まずはこの日本家屋を建てたのでした。
「村の近くには温泉が湧きだしています。それを利用しない手はありませんよね」
そう、この日本家屋は温泉旅館として建てられたものなのです。
庭は山茶花の生け垣で部屋ごとに区切られており、誰かに邪魔されることなく堪能することが出来ます。この辺りは少し冷えるせいか、山茶花がもう綺麗な花を咲かせています。
また、庭には水琴窟が設置されていて、静かな夜には虫の調べと水の奏でる音を楽しむことも出来るようになっています。
温泉も部屋ごとの小さな露天風呂と大浴場の露天風呂とがあります。
「タノベさん。この旅館はもう完成ですかな?」
彼の元へやってきた村長が、旅館を見上げます。
「はい。明後日にはお客さんもやってきます。そちらはいかがですか?」
「こっちも準備万端じゃ。屋台も作ったし、それからたき火を楽しむ場所も村の若い連中がやってくれたわい」
「それは良かった。この村のたき火で焼いたものは本当に良い匂いですよね。まるで燻製のように香ばしく……けれど、華やかな香り」
「この村のそばにある木は珍しい香木でな。この木の葉や幹を使って焼いたものはみ〜んなこの木の香りがうつるんじゃよ。昔は……香木で作った炭なんかがよく売れたんじゃが……」
村長はしみじみと言うと、1人頷いていました。
「そうでしたか……。そうだ、この木でバーベキューをやっても良いかもしれない。秋の空の下でやるバーベキューは格別でしょう」
「おお、良いですな。ではそちらの手配もさせていただきますじゃ」
「はい、よろしくお願いします」
こくりと首を縦に振った村長は、何かを思い出したのか、手をぽんと打ちました。
「忘れておったのじゃが、この村に伝わる伝説でな。水面に映った満月を見たものは……狼になってしまうというのがある。ま、ただの迷信じゃて……この村でも誰も信じておらんし、わしも信じてはおらん。実際、水に映った満月を見ても誰も狼になどなりはせんからの」
「そんな伝説が……面白いお話ですね。何かの宣伝に使えれば……うーん……」
村長が去った後も、タノベさんは考えましたがいい案は浮かばなかったようです。
しかし、それをこっそりと日本家屋の陰で聞いていた者がいました。
「狼……ねぇ……。これは良いことを聞いた」
そう呟くと、その人物はすぐにどこかへと行ってしまいました。
.・.:☆:.・.
その夜。
盗み聞きをしていた人物は誰もいない旅館に来ていました。
その手には何かの薬品が入った霧吹きを持っています。
屋根に上るとその薬品を辺りにばらまきます。
「ふぅ……これで良いだろう」
まんべんなく旅館の土地全体に拭きかけ終ると、その誰かは去っていきました。
「くふふ……これでカップルたちは……ふひひ……」
.・.:☆:.・.
恋人と一緒に温泉旅行なんていかがでしょう?
もちろん、家族、友人との旅行にも最適です。
昼ならバーベキューが楽しめますし、夜は満月を見ながら温泉に浸かることもできます。
タノベ温泉であなたもくつろぎにきませんか?