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かしわ300グラム

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シナリオガイド

にぃちゃん、ちょっとまけたってぇな
シナリオ名:かしわ300グラム / 担当マスター: 革酎

 イーライ・デュベール、という名のシャンバラ人が居ます。
 彼はつい最近、蒼空学園に入学したばかりの新米コントラクターですが、デュベール家といえば、ツァンダ内の中流貴族としても、そこそこの地位を持つことで知られています。
 イーライは、そのデュベール家の跡取りとなるべき若者でした。
 そしてシャンバラ人でコントラクターということは、当然ながら彼にも地球人のパートナーが居るのですが、どういう訳か、イーライにとってはそのパートナーがちょっとした悩みの種となっていました。

     * * *

 晴天がどこまでも続く、五月晴れのとある昼下がり。
 フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)はたまたまデュベール邸の近くを通りかかった際、ふと思い返し、イーライを訪ねてみようと、その玄関先へと足を向けました。
 実はこのフリューネ、数年前にデュベール領の小さな村が魔物の群れに襲われた時、勇敢にもたったひとりで挑みかかり、村のひとびとを救ったことがありました。
 その際、イーライも村人達と共に救われた格好になっており、いわばこのフリューネは、イーライにとって大切な命の恩人ともいうべき存在でした。
 今回フリューネは、久々にデュベール邸の威容を目にして、イーライの顔を少し覘いてみよう、という気になったのです。
 玄関先で呼び鈴を鳴らすと、程無くして、幾分青ざめた表情のイーライが玄関扉の向こうからのっそりと姿を現しました。
「あっ、フリューネさん! ご無沙汰してます! さ、どうぞ中へ……」
「あぁ……いえ、ここで良いわ。ちょっと近くを通りかかったから、イーライの顔を覘いてみようかと思っただけなのよ」
 今やシャンバラで知らぬ者無しとまでいわれる英雄フリューネ自ら、わざわざ足を向けてまで顔を見に来てくれたことに、イーライはえもいわれぬ程の感激を覚え、今にも卒倒しそうな勢いでした。
 ところがフリューネは、そんなイーライの歓喜の表情の奥に、どこか沈んだ感情の色が見え隠れしているのに気付いていました。
「ねぇイーライ。何かあったの? 少し、顔色が悪いように見えるけど」
「え? あ、あぁ、えぇと、その……」
 イーライがもごもごと口の中で言葉を澱ませていると、不意に玄関左手の前庭から、本物の魔物が地を割って飛び出してきたかのような、凄まじく耳障りなだみ声が聞こえてきました。
「ちょっとにぃちゃん! 井戸から水出てけぇへんで! ここの汲み上げポンプ、壊れとんのちゃうの!?」
 その圧倒的な破壊力を伴う声音に、イーライのみならず、フリューネも思わずぎょっとした表情を浮かべて、前庭方向に視線を転じました。
 そこに立っていたのは、年の頃はおよそ五十代半ば、若干背が低いものの、小太りで妙に恰幅の良い女性でした――いえ、ここは変に気取って女性、などと呼ぶのはやめましょう。
 その人物は最も端的なひとことでいえば、おばちゃん、でした。
 茶色に染めた髪はパンチパーマでちりちりに跳ね上がり、やたら濃い厚化粧はフリューネの度肝さえ抜いてしまっています。
 派手な豹柄のジャケットを羽織り、アニマルプリントのシャツとショッキングピンクのスパッツ、ラメ入りでてかてかとよく光る安物のパンプスなど、どれをとっても大阪の下町でよく見かける中年から老年女性の典型中の典型、まさに、おばちゃんです。
 実はこのおばちゃんこそが、イーライの契約相手だったのです。

     * * *

 少し、時間を遡ります。
 二週間前、イーライは地球側の社会見学の為、大阪は万林商店街内にある山田鶏肉店に、一日体験アルバイトとして入店していました。
 そこへ、件のおばちゃんが、かしわ300グラムを買い求めに来ました。
「えぇと……213円になります」
「あら……こまいのあらへんわ。にぃちゃん、3円ぐらいまけてぇな」
 まさか値切られるとは思っても見なかったイーライは、どう対応して良いのか分からず、店先でショーケース越しに戸惑いの表情を浮かべて、途方に暮れてしまいました。
 と、その時。
「よぅイーライ! おめぇ、まだコントラクターになってないんだってなぁ!」
 幼少の頃からデュベール家を目の敵とし、何かにつけてイーライをいじめ続けてきたシャンバラ人、ブランダル・チェバンが姿を現しました。
 ブランダルは一年前にコントラクターとなったのですが、契約を果たし、一般人に対して圧倒的な力を持つようになると、更にそれまで以上の苛烈さで、イーライを攻撃するようになっていたのです。
 勿論この時も、イーライにとってブランダルは天敵の如き存在として君臨していました。
「へっ! デュベール家の御曹司が、店員の真似事だってかぁ!? そんなんでチェバン家に張り合おうなんざ、百年早いぜ!」
「……別に、張り合うつもりは無いよ。それに今は仕事中だから、帰って……」
 そこまでいいかけた時、イーライは不意に体が浮くような感覚に襲われました。
 ブランダルがショーケース越しにイーライの胸ぐらを掴み、商店街の通路真ん中へと、力任せに投げ飛ばしてきたのです。
 突然沸き起こった騒ぎを聞きつけ、周囲にはあっという間にひとだかりが出来上がってしまいました。
「や、やめてくれよ! さっきもいっただろう!? 僕は今、こんなことしてる場合じゃ……!」
「うるせぇ! この野郎! イーライ如きが偉そうに指図してんじゃねぇ!」
 二度三度、イーライの顔面を殴りつけたブランダルは、不意に、イーライが大切にしていたネックレスを強引にもぎ取りました。
「な、何するんだ! それは母様の形見なんだ! 返してくれ!」
「へっ……返して欲しけりゃ、力ずくで奪い返すんだな」
 それだけいい残して、ブランダルはイーライのネックレスをポケットに押し込み、その場を去って行ってしまいました。
 悔しさに項垂れるイーライ。
 周囲では、ひとだかりのそこかしこで、気の毒そうな声が囁き合っています。
「くそっ……僕もコントラクターになれれば……ブランダルなんかに負けないのに……」
 そんなイーライの悔しげな呟きに呼応するかのように、件のおばちゃんが、茶飲み話でもするかのような軽い調子で声をかけてきました。
「なんやにぃちゃん。契約っちゅうのんをしたいんかいな? 3円まけてくれるんやったら、私がしたってもエエで」
 この時、イーライは気が動転していたのかも知れません。
 ですが間違いなく、この時のイーライにはこのおばちゃんが、救世主に思えてならなかったのです。

     * * *

「……で、その場の勢いで契約しちゃった……と」
「えぇ、まぁ……勢いというか、過ちというか」
 フリューネの半ば同情するような声に、イーライはがっくりと肩を落としながら頷き返します。
 そのおばちゃんはというと、イーライが家士に井戸の調査を命じたのに気を良くし、既にどこかへと立ち去っています。
 一方、イーライには母の形見のネックレスを奪い返すという、大事なミッションが課されています。
 勿論共に戦ってくれるのは、あのおばちゃん、の筈なのですが――。
「ただ……ちょっと気になる情報が入ってきているんです」
 イーライは、浮かない顔で小さな溜息を漏らしました。
 フリューネは先を促すように、小首を傾げます。
「ブランダルの奴、パラミタに帰ってきてから妙な化け物に襲われたらしくて、その時に、ネックレスも奪われたっていうんです」
 イーライが必死の思いであれこれ調べていると、マーヴェラス・デベロップメント社というIT企業のエージェントなる人物が、おかしな情報をイーライの耳に入れてきました。
 ブランダルを襲った魔物は、レックスフットという名の怪物であり、駆け出しコントラクターのイーライの手に余る相手である、と。
「……レックスフットか……もしかしたら、正子なら何か知ってるかも」
 フリューネは、過日、一緒の野球チームでプレーし、そこで顔見知りになった馬場 正子(ばんば・しょうこ)の名を口にしました。
 イーライは正子とは会ったことがありませんが、フリューネは正子とあのおばちゃんが並び立つ姿を想像し、一瞬、妙な怖気を感じてしまいました。
「ま……まぁ、何とかなるわよ」
 自分にいい聞かせるように呟いてから、フリューネはふと、あることに思い至りました。
「そういえば……あのおば……じゃなくて、女性のお名前は?」
小牟田 厚子(こむた あつこ)、です。本人は、マダム厚子と呼べ、なんてもう、本当にうるさくてうるさくて」
 かしわ300グラムの代償、というとマダム厚子には気の毒かも知れませんが、ともかく、イーライはあのおばちゃんと共に、レックスフットなる怪物に挑まなければなりません。
 フリューネは本気で、イーライに手を貸してやろうかと考えるようになりました。

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 本シナリオガイドをお読みくださり、ありがとうございます。

 敵(レックスフット)とおばちゃん(マダム厚子)はいささか特殊ですが、それ以外はオーソドックスな初心者コントラクター手助けシナリオです。
 色んな意味で哀れなイーライを、どうか皆さんの手で助けてあげてください。

 以下、レックスフットについて、イーライがマーヴェラス・デベロップメント社から聞いた情報です。

  ・レックスフットはオブジェクティブと呼ばれる、空間映像が物理的に結合した怪物の一種です。
  ・通常のオブジェクティブと比べて格段に弱いレックスフットですが、初心者には強敵です。
  ・レックスフットは単体ではなく、同じタイプの映像体が複数存在します。
  ・ちなみに、外見は何故か河童です。
  ・背後を取られて背中に攻撃を受けると、しばらくミイラ化して身動きが取れなくなります。
  ・レックスフット以外にも別のオブジェクティブが居るかも知れませんので要注意です。

 アクションとしては、普通にイーライお助け、フリューネと正子の麗人(?)会合に参加、マダム厚子とやいやい大騒ぎ、などが考えられるでしょう。

 それでは、皆様からの素敵なアクションをお待ちしております。

▼サンプルアクション

・イーライをサポートする。

・フリューネに同行して馬場正子のもとへ向かう。

・マダム厚子の脅威に立ち向かう。

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2012年05月20日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2012年05月21日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2012年05月25日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2012年06月08日


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