シャンバラ教導団

　二年目を迎えたＳＰＢ（シャンバラプロ野球）は、およそ半年間に亘る公式戦を経て、いよいよ佳境へと突入しつつあります。
　今季は蒼空ワルキューレ、ツァンダ・ワイヴァーンズ、ヴァイシャリー・ガルガンチュア、そして葦原ホーネッツの四チームが熾烈な優勝争いを展開する一方、一年目からリーグに参戦しているヒラニプラ・ブルトレインズとイルミンスール・ネイチャーボーイズの二チームが、大きくゲーム差を離されて最下位争いを演じるという、極端なまでの二極化が進んでしまっています。
　さすがにこのままでは拙い、ということで、下位二チームの首脳は水面下で秘かに巻き返し策を講じ始めました。

　　　　　＊　＊　＊

　定例オーナー会議の席にて。
　ワルキューレの共同オーナーのひとり山葉　涼司（やまは・りょうじ）は、この日の議題に上ったレンタル移籍制度の詳細を聞くにつれて、真剣に悩む素振りを見せ始めました。
「おや、珍しいでありんすね……そんなに悩むような議題でござっしゃろうか？」
　隣席から、ホーネッツのオーナーハイナ・ウィルソン（はいな・うぃるそん）が、不思議そうに目を丸くして、山葉オーナーの悩ましげな横顔を覗き込んできます。
　反対側からは、ワイヴァーンズのオーナージェロッド・スタインブレナー氏が、物凄く珍しいものを見たとでもいわんばかりの表情で、矢張り同様に覗き込んできています。
　これに対し、山葉オーナーは少しばかり天を仰ぐような姿勢で上体を反らしました。
「いや、実をいうとさ……うちは選手層が固定化しちまって、一軍と二軍の往復が、あんまり活発じゃねぇんだよな……」
　そこで、と山葉オーナーはいいます。
　現在、主力として戦っている選手の一部をレンタル移籍で一時的に放出することで、チーム内の競争を活性化させることが出来るのではないか、と。
　山葉オーナーのこの考えに対して、誰よりも早く理解を示したのは、ガルガンチュアの球団最高顧問ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）でした。
「山葉オーナーのおっしゃることも、尤もですわ。ワルキューレは今シーズン、打線は毎試合、ほとんど同じ顔ぶれですし、投げる方も目立った変化がありませんものね」
「いやまぁ……そりゃ去年に比べりゃがらりと変わったけどさ、シーズン入ってから完全に固定化し過ぎちまって、新しい戦力が台頭する余裕がねぇっていうか」
　他球団からすれば随分と贅沢な悩みでしたが、常勝を目指すチームのトップとしては、戦力全体の底上げは喫緊の課題として、常に思考を巡らせなければならないのでした。
「わっちも反対する理由は無いでござんすがね……ところで、ワルキューレは誰を出すでありんすか？」
　ハイナの問いかけに、山葉オーナーは既に心を決めていたのか、妙に引き締まった表情である人物の名をさらりと口にしました。
「馬場を出す。実はさっきから、そのことをずっと考えてたんだ」
　流石に他の面々は、驚きを隠せないようでした。
　馬場　正子（ばんば・しょうこ）といえば、今やワルキューレ打撃陣の不動の四番として、絶対的な存在感を放っている強打者です。
　その正子を、山葉オーナーはレンタル移籍制度を利用してイルミンスールに送り出す、というのです。
　残る問題はといえば、本人が首を縦に振るかどうか、でした。

　　　　　＊　＊　＊

　ところが意外にも、正子はあっさり承諾しました。
「例えどこに行こうとも、プロはただ結果を残すのみよ。球団の意向に逆らってまでひとつのチームに固執するのは、本当のプロとはいえん」
　蒼空学園のカフェテリアで、山葉オーナーとテーブルを挟んで向かい合っていた正子は、手にしたアイスコーヒーをストローも使わず、がぶがぶと豪快に飲み干しました。
　その一挙手一投足に、如何なる後悔の色も見られません。
　山葉オーナーは幾分ほっとした表情を浮かべましたが、しかしその直後、それまでとは少々毛色の違う心配げな顔つきを正子に向けました。
「そういってくれたのは、オーナーとしても有り難い。心から礼をいうよ。ただ、ちょっと気を付けて欲しいことがある」
　曰く、このほどイルミンスール・ネイチャーボーイズには、ある人物が球団理事に就任したというのですが、その人物がこれまた、ひと癖もふた癖もある人物でした。
「お前さ……ラインキルド・フォン・リニエトゥトェンシィって知ってるか？」
「うむ。確か、ネイチャーボーイズに出資しているディスカバリー・ワークスの常務だな。球団理事に就いたというのは、そのラインキルド氏か？」
　正子の問いかけに、山葉オーナーはうむ、と難しげな顔つきで小さく頷きました。
　ラインキルド氏といえば、その近くに居るだけで、自分の存在感が酷く希薄に思えてしまい、その瞬間、何をしていたのかさえ思い出せなくなるという、ほとんど特殊能力に近い雰囲気を持つ人物です。
　しかし正子は、ふむ、と腕組みをしたまま軽く頷き返すばかりで、この話題に対しては然程に深刻そうな色は見せませんでした。
　その圧倒的な存在感をもってすれば、ラインキルド氏の妙な雰囲気など打ち消してしまおう、といわんばかりに。

■2012年9月18日：削除
「ＳＰＢローカルルール（選手用）」の項目の、「（今回は例外的に１５点です）」を削除いたしました。


　本シナリオガイドをお読みくださり、ありがとうございます。

　ＳＰＢ２０２２シーズン、最後のストーリーです。
　選手の皆様はいつも通りに所属チームで戦うか、或いはネイチャーボーイズかブルトレインズへレンタル移籍し、残りのシーズンを別チームで過ごすかを選ぶことが出来ます。
　球団職員の皆様も実は今回に限り、レンタル移籍制度を利用することが出来ます。一時的に他球団で働いてみるのも、また一興でしょう。
　選手と職員のレンタル移籍先は、ネイチャーボーイズかブルトレインズのいずれにか限られますので、ご注意願います。この二チームのいずれを選ぶかは、皆様の自由です。

　但し、今回はおよそ一年ぶりに、あの悪魔が帰ってきます。

　行殺の悪魔、ラインキルド。
　運悪く彼と同じシーンに登場してしまったら、有無をいわさず行殺されてしまいますので、覚悟を決めて臨んでくださいませ。

　選手の皆様はいつものように、スキルポイントを割り振ってください。
　今回は通常通り、５ポイントです。
　また、前回までに新規に入団希望を表明されていた方につきましては、お手数ですが再度、どの球団のどのポジションに挑むかを明記して、アクションをかけて頂きますようお願いします。
　どういったスキルがあるのかを改めておさらいしますので、どこにどう割り振るかじっくりお考え頂ければ幸いです。

――　ＳＰＢローカルルール（選手用）　――
１．ＳＰＢ所属選手は、ポジション毎の個人パラメータを持ちます。
２．ＳＰＢシナリオに参加すると、所有する個人パラメータのうち、※マークのついた
　　項目は全て１ずつ上昇します。
　　※のついていないパラメータは下記３．のスキルポイントで意図的に伸ばさないと、値は増えません。
　　球種は１ポイント＝１球種となります。
　　既にトライアウトのリアクション中で描写された球種は、あくまでもアマチュアレベルであり、
　　プロ相手に通用するレベルに磨きをかける為には、この球種パラメータで１球種ずつ習得していく
　　必要があります。勿論、直球（ストレート）の習得にも１ポイントが必要です。
３．ＳＰＢシナリオ参加時に、各ＭＣ／ＬＣはスキルポイントを５点与えられます。
　　このスキルポイントを好きなパラメータに割り振る事が出来ます。
　　ひとつのパラメータに集中させても良いし、複数のパラメータに割り振っても結構です。

個人パラメータ（／で区切られたものは、ポイント使用時も含め、どれかひとつだけが伸びます）
■野手
・打撃（バットコントロール：引っ張り／センター返し／おっつけ）
・打撃（犠打）
・打撃（選球眼）※
・打撃（長打力）
・守備（一塁／二塁／三塁／遊撃）※
　　自動的に成長するのは、トライアウト時及び個別入団テスト時の宣言守備位置、もしくはチーム事情で
　　コンバートされた守備位置。
・守備（左翼／中堅／右翼）※
　　自動的に成長するのは、トライアウト時及び個別入団テスト時の宣言守備位置、もしくはチーム事情で
　　コンバートされた守備位置。
・走塁　※
・盗塁
・肩強度

■捕手
・打撃（バットコントロール：引っ張り／センター返し／おっつけ）※
・打撃（犠打）※
・打撃（選球眼）※
・打撃（長打力）
・守備（捕手）※
・守備（一塁／二塁／三塁／遊撃）
・守備（左翼／中堅／右翼）
・走塁
・盗塁
・肩強度
・リード（投手中心／相手打者中心／状況判断）

■投手
・肩強度
・球種
・球速
・球威　※
・クイックモーション
・守備（投手）※
・スタミナ
・打撃（バットコントロール）
・打撃（犠打）
・打撃（選球眼）※
・打撃（長打力）
・走塁
・盗塁
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　それでは、ご参加を検討頂ける皆様からの、行殺をも恐れぬ勇気に満ち溢れたアクションを、お待ちしております。

・所属チームでシーズン最後まで戦う。

・レンタル移籍制度を利用する。

・行殺覚悟でラインキルドとお友達。