――貴方の願いを、叶えたいと思いませんか?
甘い言葉を囁く、黒い男には要注意。
決して頷いてはいけないよ。
彼らは願いを叶えてくれる。
……大きな『代償』と引き替えに、ね。
■■■
イルミンスールの森の、ずっとずっと奥深くにひっそりと聳えている塔があります。
謎に包まれたその塔に魅せられた一人の男・ファーターは、塔の謎を解き明かしたいと願っていました。
そこへ、黒ずくめの男が現れて言いました。
「貴方の願いを叶えたいとは思いませんか――?」
ファーターは頷いてしまいます。しかしその代償は、彼のひとり息子・クロノだったのです。
攫われたクロノを助ける為、親友のヴォルフは塔へ向かいます。しかし、契約者ではないヴォルフにとって、それはあまりにも危険でした。
そんなヴォルフの前に、ジョーカーと名乗る謎の男が現れて、ヴォルフに助言を与えます。
その助言の通り、ヴォルフは契約者達の力を借り、塔へとたどり着いたのでした。
しかし、塔の中は迷宮になって居る上に、強い魔物が彼らの行く手を塞ぎます。
彼らはまだ、クロノの元までたどり着けてはいません。
■■■
その塔の頂上に、二つの影がありました。
「さあ、そろそろ始めましょうか、クロノ」
一人は、黒ずくめの男です。つばの広い黒い帽子を深々と被り、気味の悪い笑顔を浮かべています。
黒の商人。
依頼人の願いを叶える代償に、大切なものを奪っていく、謎の男です。
契約者達はこれまで彼のことを追ってきました。しかし、その正体を突き止めることは出来ずに居ました。
そして、その後ろに押し黙って立っているのは一人の少年です。黒い髪がふわりと耳に掛かり、長いまつげが目元に影を落としています。
商人は懐から水晶でできた髑髏を取り出すと、部屋の中央に設えられた台座に歩み寄ります。
「エーデル、もうすぐだ……」
商人の声が、静かに響き渡ります。
その視線の先には、まるで棺のような装置がありました。そしてその中には、金髪の美しい女性の体が収められています――
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「黒の商人と名乗る男の名前は、シェーデル。私の……恋人だった男です」
その、装置の中に収められている肉体と同じ顔の女性が、森の中で契約者達に商人の正体を伝えていました。
ジョーカーと名乗り、商人の邪魔をするかのような行動を見せていた謎の男は、契約者達の追及を受け、その正体を明らかにしました。
塔はナラカとパラミタとを繋ぐ道を封印するためのものであり、自分はその封印の人柱であると。そして、商人はクロノを新たな人柱として、彼女の肉体を塔から解放しようとしているのだと。
しかしそんなことをしてしまっては、塔の封印は正常に作動しなくなり、当たりには魔物が溢れてしまうでしょう。
ジョーカー、いえ、エーデルと名乗った彼女は、契約者達にこう言うのです。
「お願いです。彼を、シェーデルを止めて下さい――」