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【原色の海】アスクレピオスの蛇(第3回/全4回)

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【原色の海】アスクレピオスの蛇(第3回/全4回)

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シナリオガイド

残骸の島は、死者を乗せ街に向かう。
シナリオ名:【原色の海】アスクレピオスの蛇(第3回/全4回) / 担当マスター: 有沢楓花

 樹上都市の戦いの後、契約者たちはそれぞれの目的地へと向かいました。
 海の穢れの原因を探しに水源に、樹上都市から持ち去られた大樹の苗木を求めてヴォルロスへ。殺人事件の謎を解くために、貴族の別荘へ。また、その他の地へ。
 そしてバラバラに起こっていた事件が、おぼろげながら繋がりを見せ始めたかに見えたその時、海底にあの建造物が姿を現したのでした。
 ――それは、巨大な幽霊船、「だったもの」。
 マストに、黒々とした大きな海蛇が巻き付いていました。
 その蛇は鎌首をもたげると、口を開き、喉を鳴らしました。
 水の影響など受けないかのように、声なき声は響き渡り――。


 ――彼は、その声を聞きました。
「時間だ、行かねばな」
 彼は、四肢を垂れ下げ、虚ろな目のまま椅子にもたれかかっている女性に、そう言いました。
「約束の時間をとうに過ぎている……ということは、そろそろ誰かが気付いて、やってくる頃だ。
 “アスクレピオスの杖”は手に入らなかったが、まだ、この“ヒュギエイアの杯”がある。それにあの人形もな」
 手にはひとつの、古びた杯。
 女性からは、何の答えもありません。
「完璧でないからといって、無意味ではない。儀式は必ずこの手で行う。そして、パナケイアを授かるだろう」
 彼は帽子を目深に被ると、ドアノブに手をかけました。そして彼女を一瞥し。
「何も心配するな、必ず元気になる。じゃあ行ってくるよ……レベッカ





「闇龍と本質的には同じもの……か。いささか、手に余るな……」
 フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)は、契約者たちとともに、アステリアの海底都市にある、乾いた一室でテーブルを囲んでいました。
 側にはアステリアの族長、宮廷学者、部族の戦士たちの姿があります。
 海底の水源を探索していた一行は、一旦、体勢を立て直すためにここまで引き上げたのです。
 それは結果的に功を奏しました。
 ……というのは、契約者が発見した不恰好な幽霊船が、海底から浮かび上がったのです。
 そして蛇の声なき声に応え、海底から、海中から、船の残骸と使者たちが周囲からも集い始めたのです。
 原色の海に沈んだ数多の、かろうじて船のかたちを保っている船や破壊された材木を、大きな腕でかき集め、ぐしゃりと手で押しつぶしてくっつけたような、複雑な建造物です。
 大きさは小さな城ほどもあったでしょうか、その城ならば尖塔と呼べる場所に、長大な海蛇が陣取っていました。
 あちこちに密集したアンデッドの姿も見えます。先日幽霊船で出会ったようなゾンビ、スケルトン、グール、中にはリッチ――生前強力な魔法使いであった者までいました。
 それ以外は、深い霧がかかっていて、遠くから詳細が分かりません。また、空には黒雲が渦巻き、雨がぽつぽつ降り始めました。
「部下の者に見に行かせましたところ、残骸の島はここに出現したようです。そして、人が陸地で歩むほどの速度で、ヴォルロスへ向かって移動しています」
 鯨の女王ピューセーテールが地図の一点を指さします。それは、“原色の海”中央、ヴォルロスにほど近い場所でした。
 この異変は“オルフェウスの竪琴”から流れる音となり、海の部族アステリアにも同時に捉えられていました。
 イルカ同士の鳴き声による伝達は瞬く間に伝わって、海中と海面の両面から警戒が続けられています。
「この影響か、原色の海の海面一帯に集まっていた刃魚はさっと元の場所に引いていきました。おそらく異変により住処を奪われ、狂暴化していた彼らにとって、この海域が住みにくくなったのではないでしょうか」
 実際、あの島と海面には黒い藻が纏わりついていました。
「皮肉なことだが……これで住民の避難のために、ヴォルロスから船を出せるようになった、というわけか」
 フランセットは碧の目をすがめて何事か考えていたようでしたが、思い思いにテーブルについていた、また休んでいた契約者たちに向かって告げました。
「申し訳ないが、引き続き協力をお願いしたい。
 ……あの海蛇を“ウロボロスの抜け殻”と呼称する。
 我々が行うべきことは二つ。“ウロボロスの抜け殻”を倒す、または封印すること。住民に被害を出さぬよう避難させることだ。
 まず、残骸の島の目標がヴォルロスのある島か、街か、それとも人の生命なのかは判別できないが、避難については各部族に打診して受け入れて貰うよう、ヴォルロス議会に提案する。
 海軍としては、一旦ヴォルロスに戻り、ヴァイシャリーからの増援と合流後、船で迎撃したい。あの島がいつまでその形を保っているか判らない以上、乗り込むには危険だ。可能なら港からも砲撃したいところだな」
「それでは、私たちアステリアの戦士を遣わして、海中から残骸の島を探りましょう」
 ピューセーテールは頷きます。
「私見ですが、生者を死者にしその魂を喰らうと考えられます。ヴォルオスの人々の魂を求めているのではないでしょうか。
 そして敵となるのは、蛇のほかに水死者でしょう。知性が無ければろくに泳げぬ筈……。水の中に逃れるなり誘い出すことができれば、私たちの敵ではありません。
 もし残骸の島の調査をなさりたい方がいらっしゃれば、ご一緒します。ただし大人数では気づかれますから、数人というところですが」
「それは有難い、お願いします」
 そうして海図を前にしての打合せが続いている中、海兵隊のセバスティアーノはぽつりと言いました。
「……失礼ですが、以前も海の穢れから現れた怪物と、戦われていますよね。何か弱点はないんですか?」
 ピューセーテールは一度考えるように目を閉じると、開き、言いました。
「光はひるませ、闇が貴方の身を守るでしょう。
 ですがそれ以上に、穢れがここまで短時間で怪物として現れた理由……力を与えている何か、力の供給を断つことが先だと思います。
 あの島からは強大な魔力を感じます。おそらく術の対象である蛇と、力を与える術者の側とを繋ぐもの――何らかの魔術の媒体が、双方に用意されていると予想できます。
 ただ、戦うにしても忘れないでください。怪物と言っても、それを生み出し核となるのは浄化されぬ魂……。悪と呼ぶものではないのです」





 フランセットたちがヴォルロスに戻るまでの間、ヴォルロス議会場の一室では、一晩、苗木泥棒たちへの尋問が続けられていました。
 正確にはフリーの傭兵を雇って樹上都市から苗木を盗ませた依頼人――ジェラルディ家の当主ジルド・ジェラルディの執事と、雇われた傭兵です。
「いやー、昔から灯りに最適って隣近所で評判だったんですよねー」
 守護天使が、ひときわ明るい光翼を広げて嬉しくもなさそうに呟きました。
 彼の腕の中には、例の大樹の苗木がありました。ずっと明るいのは生育に良くないと思っているようです。
 中年の執事には一晩の尋問はいささかこたえたのか。傭兵の方も、二度も襲撃を受けて美味しくないと思ったのか。
 二人がぽつぽつと語りだしたのは、以下のようなことでした。
 ・ジルドは、オークの大樹の苗木を魔術の材料として欲しがっており、執事を通して傭兵に依頼を出し、雇った。
 ・傭兵たちは依頼主の詳細を知らない。指示は樹上都市の簡単な地図と、都市で混乱が起きるのでこれに乗じて盗み出せといったものだった。
 ・ジルドは研究の成果を上げるためなら何でもするだろう。
「……研究ですか?」
「はい。三年前、レベッカ様が海で溺れかけてからというもの奇妙な魔術に没頭するようになられ……」
「依頼したのは、それだけじゃありませんよね。何を隠しているんですか?」
 執事の目の前に立って、低い声で言ったのは一人の女性でした。執事が捕えられたと聞いて、夜中にも関わらず街を駆けまわり、そうして朝にやってきたのです。
「申し遅れました。村上 琴理(むらかみ・ことり)レジーナ・ジェラルディ嬢の婚約者のパートナーです。
 少し考えたのですけど、契約者に力で勝てなくとも、混乱させることは可能ですよね? そうですね、貴族ほどの力と地の利があれば……。そうそう、地球には『ガス燈』っていう映画があるんですよね、ご存知ですか?」
 琴理は微笑んでいましたが、目は笑っていませんでした。
「でも結局この海では、ヴァイシャリーの貴族もまだ外様なんですよね。だから、貿易を行っていた彼を利用し、また目的のものを手に入れようとした。よくあれだけの人数を買収しましたね。
 ……ええ、無駄遣いは良くないですけど――お金って、使うベき時に使うために貯めておくものですから」
「……それでは……いや、しかしあなたがここにいるということは……」
「……?」
 怪訝な顔をする琴理に、執事は複雑そうな表情を浮かべました。
「あの、レベッカ様は……今、どちらに?」





 フェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)の別宅。
 レジーナを装って訪れたレベッカ・ジェラルディは既に寝室に入り、フェルナンも疲労でか階下の騒ぎには気付かなかったのか、寝入っていて、家は静まりかえっていました。
 その一室に、今臨時の探偵事務所が開かれていた――ジェラルディ家の内部に潜入した契約者たちの力を得て、何とか体裁を保って抜け出すことができたアナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)たちの姿があります。
 婚約者の宿泊時に、他人の家に勝手に押しかけるのはどうか、と考えもしましたが、既に複数人泊まり込んでいるのだから一緒だろう、と考えたようです。
 アナスタシアは欠伸をかみ殺しつつ、今までに得た情報を手帳から、広げた紙に書き出していました。
 同時に、この家で行われた一連のやり取りを聞いて、首を軽くかしげます。
「……あの死者……のような女性が、レジーナさんで間違いないのでしたら、お姉様のレベッカ・ジェラルディさんが時折成り代わっていた、ということですわよね。
 そうなれば車椅子の上の生気のない状態と、一人で外出できる状態……。でも何のためにそんなことをする必要がありますの?
 私が見たところ……そんな状態でフェルナンさんを好きだと意思表示は難しそうでしたし、ジルドさんの意向なら、レベッカさんと婚約すればいいでしょうに……」
 ――それに、ジルドの狙いは何だったのでしょうか。
「フェルナンさんが所持していた絵画の下に描かれた魔方陣――滅多に目にしないような、複雑な魔方陣でしたわ。
 それも……いわゆる悪魔召喚であったり、何らかの生物に力を与えるための線が多く描かれてましたの。ジルドさんの蔵書と照らし合わせると、死者に関わるものに間違いありませんわ。
 ……仕方ありませんわね、夜が明けたら再びジェラルディ家に、今度は正面から訪ねますわ。悪いことは真実の明りの前には隠しておけないものですわ!」
 アナスタシアが席を立って、空いた寝室で仮眠を取ろうとしたその時――フェルナンの部屋の部屋の扉が、閉まるところで――ひらりとネグリジェのスカートが舞ったように思えました。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 遅くなりましたが、アスクレピオスの蛇の第3回をお送りします。
 今回、時間軸は前回の終了後、夜中から夜明け以降。幽霊船でできた残骸の島は数日でヴォルロスに達すると見られ、それまでの出来事となります。

 アクションに関して、幾つか考えられる選択肢を列記します。

・残骸の島に上陸(危険度:大)
 近づくほど霧が濃くなり、視界はかなり悪い状態で、今後雨が降ることも予想されます。アンデッドが多く、上陸そのものにかなりの危険を伴います。蛇はまだ実体を伴っておらず、人に積極的な「攻撃」を行いませんが、その体は瘴気のようなものでできており、触れるのは危険です。また味方からの砲撃にも注意が必要です。
・残骸の島に海中から忍び込む(危険度:大〜中)
 深部への突撃は危険でしょう。なおアステリア族及び連絡役の海軍と共に行く場合、撤退は容易ですが少人数です。偵察・最低限の戦闘に留まります。
 海兵隊からはセバスティアーノが連絡役として同行します。
・残骸の島を船から迎撃(危険度:中)
 注意するのは海蛇とアンデッドの遠距離攻撃。フランセットら海軍は機晶船計3隻と攪乱用の機晶水上バイク……ですが、破壊より撃退・時間稼ぎを優先します。
 船を操るための水夫は乗っていますが、海兵隊員や大砲隊員など戦闘要員だけでなく、船医、コックなどなど、各種持ち場の人員も不足気味です。
・ジェラルディ家の執事に尋問を続ける(危険度:なし)
 聞かれたことには答えています。逆に言えば、聞かれていないことについては殆ど話していません。体面や家への忠誠心などのためです。聞きたいことがある場合はある程度具体的な質問が必要でしょう。
・ジェラルディ家の探索(危険度:小)
 ジルドとレベッカは外出中で、使用人も住み込みの最小限しかいません。ただし不法侵入になる可能性があるので、派手な行動には注意が必要です
・ヴォルロスの島民を避難させる(危険度:小)
 各部族へ、または都市の外、籠城など。指揮の中心となるのはヴォルロス議会です。森などには野生生物がいますが、契約者や議会の傭兵にとって敵ではありません。


 また、その他前回までのリアクションをご参考に、自由にアクションをかけていただけます。
 (例:アナスタシアはジェラルディ家の別荘を出ましたが、潜入されている方は、出たふりをして留まっているなど)

 皆さんのアクションをお待ちしています。

▼サンプルアクション

・機晶水上バイクで攪乱する

・海中から島に潜入する

・殺人事件の謎を暴く

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2013年07月18日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2013年07月19日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2013年07月23日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2013年08月06日


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