ゴゴゴゴゴ
ある日、シャンバラ大荒野の山岳に近い一帯に、悪魔が鳴いているかのような地鳴りが響き渡りました。
大地が裂け、地中から姿を現したのは、石造りの巨大な神殿だったのです。
その神殿を探険した地元の人々は、神殿の柱や石板に刻まれた、悠久の過去の足跡を伝える古代文字の大半を解読できなかったのですが、唯一、その神殿が「パンツァーの神殿」と呼ばれるものであるとだけ、理解することができました。
さらに、神殿の内部は、厨房や食堂、大浴場やステージのほか、おびただしい数の客室が備えられて、さながら巨大なホテルのような構造になっているとわかりました。
正体不明の不気味な神殿の噂はたちまちのうちに荒野に住む荒くれ者たちに伝わっていき、金目のものを探す盗掘者たちが神殿に忍び込むようになりました。
そして、パンツァーというのが何なのか、神だとして、どんな存在であるのかさえもわからない状態の中で、ある日、神殿の前に、一人の少女が現れました。
その少女は、名をアケビ・エリカといい、シャンバラ大荒野の者にしては珍しい、知的で清楚な雰囲気を持っていることで知られる存在だったのですが、その目は焦点を結んでおらず、その言葉は、夢みるものの語りのようで、何かに憑依されているとの推測を喚起せずにはいられませんでした。
「みなさん、パンツァー神は、大地に神殿が現れたいま、自分に仕える巫女たちを求めています」
エリカは、夢みるような口調でいいました。
「この神殿の中で、他者に対して献身的な奉仕を行い、その奉仕の志が素晴らしいと神に認められれば、神に仕える巫女としての認定を得ることができるでしょう」
パンツァーの神殿の中で、主人や恋人やパートナー、あるいはその他の宿泊者等に献身的な奉仕を行い、その志をパンツァー神に認められた者は、パンツァーの巫女となれる。
その噂は、瞬く間にパラミタ中に広まり、奉仕に生き甲斐をみいだそうとする多数のメイドたちが神殿に集まり、炊事や清掃などにいそしんで、さながらホテルの従業員のように、宿泊者に対して親切に振る舞うようになりました。
同時に、「奉仕の相手も必要だろ」ということで、多数のマッチョマンたちも「イアー!」と奇声を発しながら神殿に集まって、磨きあげられた素晴らしい筋肉をメイドや宿泊者に誇示し、「俺に奉仕しろ!」と一方的に求めるようになりましたが、こちらはあまり人気がないようです。
そして、神殿には、もうひとつ、別の噂が囁かれることになりました。
それは、カップルが神殿に宿泊すれば、その絆がより一層深まり、お互いをより成長させていく大きなきっかけになる、という噂だったのです。
絆が深まる。
その効能は、もしかしたら、パンツァー神がもたらすものなのかもしれません。
そして。
「そこのけ、そこのけ!! 煩悩に狂い、風紀を乱す輩は拙者が成敗いたす!!」
神殿の周囲に、夜な夜な巨大なハサミを振り回して暴れる、奇怪なサイオニックが姿を現すようになりました。
そのサイオニックの名は、ティンギリ・ハンといい、鏖殺寺院の「黒の十人衆」の一人だともいわれています。
禁欲的な思想を持つ彼は、神殿の中で何らかの淫らな行いがなされるなら、情け容赦なく襲いかかって妨害しようと決意しているようです。
パンツァー神の巫女とは?
そして、神が望む真の奉仕とは何なのか?
その答えは、神殿の中で今晩、明らかにされるのかもしれません。