2023年、2月13日。
空京の、とある大型ショッピングセンターに、以下のような看板が張り出されていました。
『みんなで、聖VD前夜祭を大いに楽しもう!
来る2月13日の夕刻、バラーハウスにて、恋人たちの熱い夜を演出します。
あなたの想いを形にして、大切なひとへぶつけてみませんか?
甘くて楽しい、大切なひととの熱い夜を、是非!』
参加費は無料、ということで、多くのカップルが参加を申し込みました。
一体どんなイベントが待ち受けているのか――恋人たちは、当日のイベント開催を心待ちにしていました。
ところが……。
* * *
「は〜い、それではみなさん、この目隠しをして、スタッフの誘導に従って歩いてくださ〜い」
2月13日、夕刻。
イベントに参加した数多くのカップルが、イベントスタッフの説明に従って目隠しをし、何も見えない状態で誘導されていきます。
およそ10分近い誘導時間を経て、カップルたちは妙に温度の高い場所へと連れて行かれました。
それに心なしか、妙に音が殷々と響き渡る広い場所のようにも感じられ、相当な人数がひしめき合っているような、そんな感覚すら受けてしまいます。
「ではみなさん、目隠しを外してくださ〜い」
スタッフの指示に従って目隠しを外したカップルたち。
そこで彼・彼女たちが見たものとは――。
「よくぞ参った、死を恐れぬ猛者ども! 貴様らの勇気に免じて、こちらも最高の戦士を用意しよう!」
カップルたちは、驚愕に全身を硬直させていました。
彼・彼女たちが連れてこられたのはバラーハウスではなく、その地下に設置されている『地下闘技場』だったのです。
全員、四角いリングの中に押し込まれるような形で立たされ、目が血走っている獰猛な観客達が数千人とひしめく観覧スタンドからの視線を、一斉に浴びていました。
そして今、目の前に立つひとりの巨人、ヴァンダレイ・シルバなる格闘家が、大音声を響かせて咆哮します。
「聖ヴァンダレイ・デイに命を燃焼させる戦士たち、出てこいやぁ!」
ここでようやく、カップルたちは騙されていたことに気づきます。
彼・彼女たちは今回のイベントを企画した非リア充エターナル解放同盟に、完全に嵌められたのです。
地獄の地下闘技場から脱出する方法は、ただひとつ。
聖ヴァンダレイが送り込む数多くの刺客たちを打ち負かし、地上への脱出権を勝ち取ることのみ。
カップルたちの、死に物狂いの戦いが今、始まります。
彼・彼女たちは聖ヴァンダレイが得意とする膝蹴りの嵐から、逃れることが出来るでしょうか。
今宵、贈られるのはヴァレンタインキスではなく、ヴァンダレイキックだったのです。