シャンバラ教導団

　2023年が終わろうとしています。
　2024年が、はじまろうとしています。

　夏があれだけ暑かったのに、冬ともなれば身を切る酷寒。ことに、夜ともなれば厳しいものがあります。
　白い細片が散ります。ブーツの先が蹴ったのは、神社の柔らかな土に出た霜柱でした。
　カーネリアン・パークス（かーねりあん・ぱーくす）は足を止めました。
「来たぞ」
　彼女の黒い髪は夜に同化し、そのぶん、雪色の肌が冴え冴えと鮮やかでした。赤い瞳は恒星のよう、けれど少し不機嫌な形で、口も真一文字に結ばれています。……まあ、カーネリアンはたいていこういう顔をしているのですけれど。
　――笑えばもっと綺麗なのに。
　と、彼は思ったようですが、それを口に出しはしませんでした。
　その『彼』というのが、どうにも奇妙な姿をしていました。小太りで背も低く、正直、ぱっとしない体型ですが、それを補ってあまりあるのがその真っ黒な覆面です。すっぽりと頭から袋をかぶっているようなスタイルで、銀行強盗のような異様な雰囲気でした。マスクの目の部分はサングラス、口元も覆われています。（ただ、マスクは毛糸製らしくなんとも温かそうではあります）
「よ……よく来てくれたね」
　本当に来てくれるなんて……と、異様な格好のわりに自信なさげな彼の口調です。
　彼の見た目に臆す様子はカーネリアンにありません。
「貴様、名前は」
「僕？　えーと、ドクターＸ（エックス）とでもいうことにしよう」
「そうか。それでＸとやら、自分の定期入れを拾ってくれたこと、感謝している」
　と言うわりにあまり嬉しそうな顔をしていませんが、こう見えてちゃんと謝意のある彼女なのでした。
「借りは作りたくない。自分にできることであればなんでも応じるつもりだ」
　カーネリアンは百合園女学院の生徒、先日彼女はその通学定期を落としてしまったのです。幸い定期入れを拾ってくれた人がいるのですが、それがこのＸだったのは幸か不幸か……いや、読者の皆さんも不幸な予感がしているでしょうね。
「なんでも……だよね？」
　ごくっと生唾を飲みこんで、Ｘはカーネリアンの姿を一度、上から下までとっぷりと眺めました。
　そして彼は、なんとも破廉恥な提案をしたのです。

「南！」
　たとえ凍える冬の朝でも、クランジ　ロー（くらんじ・ろー）（こと、ローラ・ブラウアヒメルの声には太陽のような明るさがあります。
　小走りでローラは小山内　南（おさない・みなみ）に追いつきました。
　ここは、巨大ショッピングモール『ポートシャングリラ』内のスーパーマーケットです。あふれるほど食材が入っているローラのカゴと、少量でしかも賞味期限まぢかのおつとめ品ばかりという南のカゴは妙に対称的だったりします。
「買い物か？」
「はい。もう年末ですし」
　クリスマスも終わっていよいよ年末、この買い物はお正月の準備といったところでしょう。
　他愛もない会話をしつつ、二人は情報を交換します。これまでのこと、これからのこと、お正月の予定など。
「それで、ローラさんはお正月をどう過ごされるんですか？」
「そうね、馬場校長、書き初めやる言ってた。それ参加してもいいけど……ワタシ、字ヘタね」
　てへへ、と恥ずかしそうにローラは頭をかきます。
「初詣、行こうかと思うけど、パイは……たぶん、先約あるね、邪魔できないよ。そうだ！」
　ぱっと向日葵が咲いたように、ローラは南の両手を握ったのでした。
「南、一緒に行く！　初詣、きっと楽しいよ！」
「え？　あ、はい。でも……いいんですか」
「もちろんね！　あのオッチャンも連れてくね！」
「誰がオッチャンやねーん」
　がさ、と南のカゴに、イカの炙ったのを放り込む小さな手がありました。
「まあオッチャンやけどな」
　ニヤッと笑う小さなカエル、おっちゃんゆるキャラカエルの　カースケ（かえるの・かーすけ）でした。



「なんだ、これは」
　カーネリアンはあからさまに不審な目を向けました。

「リアジュウセイバイーッ！！」

　気も狂わんほどに熱く哀しくそして胸を打つ、魂は激しく震え滝のように泪があふれる……そんな孤独の叫びが、二人の目の前にあるものから発されたのです。
「ゴ……ゴム怪物さ、知らないのかい？」
「知らんな。自分は見たことがない」
　それは、直径一メートル程度の円形をした平べったい生き物（？）でした。たしかに生ゴム風です。怪物ではあるのでしょうがおどろおどろしさはなく、なおも「リアジュウ、バクハツ！」とか哀しいことを口走りつつも、ぷよぷよと身を震わせています。色はピンク色、不定形なのか動くと、くにゃくにゃ姿が変わるようです。
　カーネリアンが知らないのも無理はありません。この怪物が大量に出現し一騒動を起こしたのは、もう三年も前のお話なのですから。そのとき以来、この怪物は一度も目撃されていません。（シナリオ『らばーず・いん・きゃんぱす』）
「『リアジュウ』というのはどういう意味だ？」
「簡単さ」
　覆面の男ドクターＸはうなずきながら言いました。
「『リア充』というのはリアルが充実している人のことで……」
「わからんな。『充実』の定義が知りたい」
「ええと……その……イチャイチャしている人たち」
「もう少し具体的に言え」
「だから……つ、つまりキャッキャウフフと楽しそうにしている恋人たちのことだよう！」
「そうか」
　ふんと息を吐いてカーネリアンは己を指でさすと、
「つまり貴様、定期を拾ってくれた礼に自分とイチャイチャしたいというわけだな？」
「ええっ、いいの！？　じゃなくて、違う違うそうじゃない！　この怪物はリア充たちが大嫌いなんだ！　カーネリアンさん、きみにしてもらいたいのはゴム怪物の誘導だ。怪物ならいーーっぱい用意したから、元旦にこいつらをカップルの多そうな場所にバラ撒いてほしいんだ」
「つまらん願いだな。だが、借りは借りだ。引き受けよう」
「ちなみにこの怪物は、以前のものを研究して改良を加えてあってね……ただカップルに襲いかかってからみつくだけじゃなくて、くっついた部分の衣類を透過することができるんだ！」
　Ｘは激しく興奮していますが、カーネリアンは実に興味がなさそうな顔をしています。
「しかも夜間は光る！　服を破ったりはしないし危害は加えないけれど、これで、クリスマスで生まれた即席カップルのラブラブムードなんて台無しさ！　とんだお正月になるってわけだよ」
　あっはははは、とマスクの男は笑いましたが、カーネリアンは冷ややかでした。
「楽しいか？」
「…………虚しいです」



　さようなら2023年、おめでとう2024年。
　クリスマスは終わり、お正月がやってこようとしています。
　初日の出を見る、初詣に行く、家でじっくりすごす……楽しみ方はそれぞれでしょう。
　ぜひ、あなただけの新年を送ってください。

　ご無沙汰しておりました！　あけましておめでとうございます。マスターの桂木京介です。
　今回もよろしくお願いします。

【シナリオ概要】
　フリーシナリオとして、大晦日の夜から新年の朝、その夜あたりまでを描きたいと思います。
　基本的には行動は自由です。馬場正子主催の書き初め大会と初詣を提案していますが、もちろんそれ以外のイベントを考えてもらってもかまいませんし、場所の指定もありません。
　他に話の縦糸としてゴム怪物登場話を用意しました。この怪物は主として空京の街中に出現し、デート中のカップルを襲うようです。後半には空京神社に流れていくかも……ですがなにせ広い世界が舞台ですので、アクションで絡もうとしない限りこの怪物に絡むことはありませんのでご安心を。


【公式NPCについて】
　順不同ですが、以下の公式NPCが登場予定です。
　金鋭峰、御神楽環菜、エリザベート・ワルプルギス、馬場正子、桜井静香、ラズィーヤ・ヴァイシャリー、アーデルハイト・ワルプルギス、ミーミル・ワルプルギス、アクリト・シーカー、イングリット・ネルソン、設楽カノン、カールハインツ・ベッケンバウワー、仁科耀助、龍杜那由他、金元ななな、高円寺海、アキレウス・プティーア、夏來香菜、泉美緒、ラナ・リゼット、フィリップ・ベレッタ、雅羅・サンダース三世、アルセーネ・竹取、リンネ・アシュリング、ミリア・フォレスト、小暮秀幸、アイリ・ファンブロウ、レオン・ダンドリオン、卜部泪、羅英照

　なお、馬場正子は蒼空学園で書き初め大会を開いており、金鋭鋒を含む数人のＮＰＣがこれに参加しています。


【桂木担当NPCについて】
・小山内南、カエルのカースケ、クランジ　ロー（ローラ・ブラウアヒメル）――連れだって初詣に行きます。一緒に行きたい人、現地で出会いたい人は是非どうぞ。
・カーネリアン・パークス――ピンクのゴム怪物軍団を引き連れて神出鬼没の展開をします。
・クランジΙ（イオタ）（未登録NPC）――金鋭鋒に連れられて書き初め大会に来ています。情操教育ということらしいですが……。
・クランジ　パイことパティ・ブラウアヒメル、ユマ・ユウヅキ、ジャネット・ソノダ（未登録NPC）――特に場所の指定はありませんが登場します。


【NPCと交流される際のご注意】
　展開によっては登場しないNPCもいます。
　毎回書いていて申し訳ないのですが、NPCとアクションを絡めたい場合、どのNPCと接触を持つか、そして、該当NPCとのこれまでの関係（初対面なのか友人同士なのか等）を明記しておいて下さると大変助かります。
　また、NPCと絡めることを希望されても、かならずしもうまくいくわけではないということをあらかじめご了承下さい。


　以上、皆様のご参加を楽しみにお待ち申し上げております。
　それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう。
　桂木京介でした。

・蒼空学園の書き初め大会に参加する

・新年デートで初詣に

・恋人とのひとときをすごす。（そしてゴム怪物に襲われる）