パラミタ大陸の周囲には、タシガンの他にも大小幾つもの浮き島が存在しています。
空京より遥か南に存在する、セレスタインもそのひとつです。
ですが、その島では今、シャンバラの人々の知らぬところで、異変が起きていたのです――。
「嫌だっ、僕だけ逃げるなんて!」
ヴァルキリーの少年、コハクが、ヴァルキリーの女戦士、アズライアと共に物陰にひそみつつ、彼女の言葉に声を荒げました。
「逃げるのではない、護るのだ。
何者かは知らないが、奴等の狙いは私と、この光珠らしい。
私がこれを持っていて、共に奴等の手に渡すわけにはいかぬ。
お前はこの光珠を護り、この島を離れよ。決して奴等の手に渡してはならない」
「で、でも……!」
「お前はひ弱で、いささか心許ないが、頼んだぞ、コハク」
「でも、奴等はあなたを生け捕りにしようとしてた! 一緒に逃げた方が……!」
「……この島は堕ちた。
しかし私はこの地の”守り手”として、最後までここを離れるわけにはゆかぬ」
シャンバラに密かに存在する、幾つかの”聖地”。
そのひとつであるこの島の守り手であり、そしてこの島で最も勇敢なる女戦士として、アズライアは引くことを選びませんでした。
「…………私は違えた。奴等は恐らく」
苦い表情で言いかけて、はっと顔を上げたアズライアは、戦槍を握り締め、翼を大きく広げました。
「よいか! 任せたぞ!」
「アズライア……!!!」
飛び去って行くアズライアの先に何者かの気配を感じ、コハクは慌てて身を隠しました。
その手には、アズライアから託された光珠をしっかりと抱えて。
「ひとり、逃げたぜ」
アズライアを囲みながら、1人の少年があらぬ方向を向きます。
「後にしろ。今は”守り人”が先だ」
「はいはい。アンタは堅実でつまんねーな。
でも1人しか逃がせなかったなんて、勇壮なるヴァルキリーの守り人の名が泣くな!
ま、俺達が全員で来たんだから当然の結果だけど」
魔術師装の銀髪の青年の言葉に肩を竦めた後、その少年はアズライアに嘲笑を向け、アズライアは自分を囲む4人の敵に向かって、臆することなく戦槍を構えました。
しかしコハクもまた、逃げ場を失いつつありました。
”この島は堕ちた……”
聖地と冠されたこの島は、襲撃してきた何者かによって『魔境化』され、瘴気が覆い始め、正常な生き物の存在できない地となり始めていたのです。
コハクは、シャンバラ本土に脱出することを決意しました。
空の海峡を越えて、その向こうにある、空京へ。
アズライアから託された光珠を狙って、恐らく追っ手が来るに違いないけれど、コハク1人で守りきることはできないでしょう。
そして、きっと、自分を逃がす為に囮となり、謎の敵の手に落ちたであろうアズライアも、かの地にいると信じて。
一方。
空京では、迷子の少女、ハルカが途方にくれていました。
「おじいちゃんが……おじいちゃんがいなくなっちゃったのです……!」
イルミンスール魔法学校に入学する為に、地球から空京に来た矢先のことでした。
ひとしきり困った後、ハルカは前向きに決意しました。
「おじいちゃんのことだから、何処かで迷子になっちゃってるに違いないです!
おじいちゃんを捜すのです!!」
きっときっと、テンネンボケなおじいちゃんのことだから、ハルカがいないことに気がつかなくて、ひとりでイルミンスールに行っちゃったに違いないのです!