「全て鏖殺寺院の仕業なの! こんな、こんな酷いことをするなんてっ」
作業用のテントに避難したミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、お菓子にも手をつけずに悔しげに言いました。
間違えて自爆用の紐を引いて、休憩用のテントを爆破しちゃったことも全て鏖殺寺院の仕業にしようとミルミも必死なのです!
「それはデマだと思うよ?」
別荘から救出された小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)という少女がミルミに別荘内部でのことを話して聞かせました。
別荘を占拠していたのは、様々な学校の不良達であったこと。その後、ヴァイシャリーで働いているらしい卒業生を含むパラ実の女性達が加勢に現れて、白百合団に対抗しようとしていたのだと。
「鏖殺寺院のメンバーなんていなかったし、テロが行なえるような設備も武器もなかったよ?」
「え……っ、でもさっき幹部らしき人達が謝れって言ってきたし、証拠を見たって言ってる人もいた、し……」
ミルミは軽く首を傾げました。
「占拠していたメンバーを説得してきてくれた者もいる」
「戻ってきてくれたんだっ!」
続いて早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、仏頂面の不良を数名引き連れて作業用のテントに現れました。
生き残りであるその不良達も鏖殺寺院とは全く関係がないと証言をしたのです。
「寧ろ、てめぇらの中に鏖殺のテロリストがいるんじゃねぇの? 発狂しながら炎を放ちまくる奴等に、獣のような鳴き声で、飛びかかってきた女もいたって言ってた奴がいる。アレは鏖殺寺院が作り出した合成獣の可能性がある!」
「なんて恐ろしい。ゴキブリだけではなく、本当に人間まで実験材料にしていたのですね。まさかゴキブリとも掛け合わせて……」
簡易ベッドで休んでいる荒巻 さけ(あらまき・さけ)が身を震わせました。
「それは……えーと、さけはその件に関して深く考えない方がいいです、はい」
何も覚えてない彼女に、日野 晶(ひの・あきら)が額を押さえながら言いました。
「俺は屋敷が崩れる直前まで屋敷ん中に居たんだが、煙以外の異臭が充満し、仲間達がバタバタと倒れちまったんだ。毒ガスなんじゃねぇか?」
「それはやはり、鏖殺寺院のテロ行為に酷似しておりますな。恐らくは発見されていない地下に研究施設があったのでしょう」
不良の言葉を聞きつけ、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が悠然と姿を現しました。
仲間と共に決行した撞車による別荘破壊作戦失敗後、自信を喪失しゲルデラーはその場にへたり込んでいました。
パートナーのアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)に首根っこを掴まれて引きずられ、「この甲斐性なし!」と陰で散々怒鳴られていたことは彼の名誉にかけて秘密なのです。そのお陰で自爆の被害を受けなかったなんて、仲間にも言えません。
「いやしかし、ここは人命救助を優先せねばなりませんな」
ゲルデラーは眉を寄せて険しい顔つきで言いました。
彼としても諸事情により鏖殺寺院の仕業としながら、皆の目を別の問題に向けさせる必要があります。ええ、諸事情により。
「うん、鏖殺寺院のガス攻撃で倒れて動けない人もいるかもしれないしね! 美羽ちゃんが地下の場所わかると思うし秘宝無事だったら、見つけた人の好きにしていいからね。でも皆、まずは救助活動と瓦礫の撤去頑張って!!」
ミルミは力の限り応援します。勿論自分は動くつもりはありませんが。
「それと今回の件は、鈴子ちゃんを通して、教導団の団長にきちんと事細かくありのまま報告するからね。よろしくね!」
ミルミはポンとゲルデラーの肩に手を乗せました。その言葉は、彼女にその意図はなくとも一種の脅迫です。
「別荘、壊れちゃったね」
「お掃除できなくなっちゃったの」
「せっかく、洗剤撒きましたのにぃ。同じ洗剤補充しますぅ」
「後ろで、最後に窓から一緒にしゅーっと沢山入れたの、面白かったの」
朝野 未沙(あさの・みさ)、朝野 未羅(あさの・みら)、朝野 未那(あさの・みな)は掃除用具を持って一旦作業テントに戻ってきました。
「未羅ちゃんと未那ちゃん、頑張ってくれたのに。でも、瓦礫を片付けた後地下を……ん?」
未沙は洗剤の補充を始めた2人を見て、言葉を失いました。
未羅は酸性洗剤を熱心に入れています。
未那は塩素系洗剤をどぼどぼと入れています。
「ええっと、未那ちゃん。その洗剤はあとで使おうね。戻してこっちを入れてね」
冷や汗を浮かべながら、未沙は中性洗剤を未那に渡しました。
○ ○ ○ ○
――別荘倒壊直前――
地下に入り込んですぐ
瓜生 コウ(うりゅう・こう)は異変に気付きました。
以前は無かった煙以外のツーンとした臭いを感じたのです。しかし、ここ以外もう避難できる場所はありません。
皆にも注意を促そうとしたコウですが、突如真っ先に地下に入った少女――百合園のミクル・フレイバディに手を捕まれました。
「来て」
「っと」
彼女に腕を引かれて、後ろ向きに足を踏み入れたその先には異質な空間がありました。
ミクルが持っているペンライトだけが光源です。
「調査に来た時にはこんな場所なかったはず……」
言いながら振り返ると、地上への出口はなく目の前は壁でした。
「ごめんなさい、1人じゃ怖かったから」
ミクルはそう言った後、コウの手を放して空間の奥へと歩いていきます。
コウも皆が気になりましたが、戻ることもできず、ミクルの後を追いました。
「こ、れは……素晴しい、生態系……?」
その先にあったもの……いえ、者を見て、コウは目を見開きました。
羽の生えた人の形をした数多くの存在が、水晶のような石の中で眠っていたのです。