とうとう、鏖殺寺院の蛮族部隊は、教導団本校内部に攻め入って来た。
ヒポグリフ隊と『光龍』および高射砲の連携によって、飛龍と高速飛空艇からなる敵飛行部隊のおよそ7割を戦闘不能に追い込んだとは言え、金鋭峰団長をはじめ、本校以外の場所で鏖殺寺院と戦う教官や生徒も多く、物資にも制限がある中で、校内の生徒たちは厳しい戦いを強いられている。
「今だけでいい、本校を……ネージュを守るために、協力しあってもらえませんか」
神子として覚醒したパートナーの機晶姫ネージュを守るため、この状況下にいまだ微妙な対立を続ける風紀・査問委員たちと『白騎士』に、深山楓(みやま かえで)はそう提案した。
査問委員長の妲己(だっき)と、『白騎士』のヴォルフガング・シュミットは、楓の提案に対して、自分たちの派閥の生徒たちの意見を確認してから答えたいと即答を避けている。
しかし、パラミタの状況の変化に従って、生徒たち同士、そしてパラミタと地上の各国との関係もまた変化して来ている。楓の提案と、派閥に属する生徒たちの答えによっては、教導団は一つの転機を迎えることになるかも知れない。
一方、歩兵科教官林偉(りん い)率いる校外の部隊は、ひとつの賭けに出た。
本校から遠くない場所に、敵の拠点があるはずと考え、それを探して叩こうと言うのだ。
「機晶石を動力源とする飛空艇に補給の必要がなくても、弾薬の補給や搭乗者の休息は必要になるはずです。この山岳地帯の周辺に、高速飛空艇が着陸出来る拠点が必ずあると考えます」
林から連絡を受けたパートナーの燭竜(しょくりゅう)主計大尉は、指揮本部にそう具申し、拠点探索・攻撃のためにヒポグリフ隊と航空科の機体の一部を割く許可を得た。高速飛空艇の行動から、拠点は本校から見て山岳地帯の裏側に当たる方角にあると推測され、普段人が立ち入らず、高速飛空艇が着陸可能な場所ということであれば、場所はかなり限られて来る。
拠点が発見されれば、林の率いる部隊は速やかにそこを攻撃に向かう。協力するヒポグリフ隊・航空科には、空からの拠点攻撃の他に、林の部隊への補給の任務も与えられた。敵の飛行部隊を突破して行かねばならず、敵の数が少なくなったと言っても、危険は伴う。
そして本校ではもちろん、《冠》とネージュをいかにして守るかが、この戦闘のキーポイントになる。
「いっそのこと敵の飛行部隊を叩き終わったら、《冠》は研究棟の地下へ入れる?」
楊明花(やん みんほあ)技術科主任教官はそう提案しているが、飛行部隊と戦っている間、校内にいる鏖殺寺院からいかにして《冠》を守るか。ネージュと楓は、学校内で最も強固と言われる技術科研究棟内に保護されているが、ネージュは既に、ルドラが近くに来ていることを感じ取っている。こちらも警戒が必要だ。
シャンバラ教導団本校の命運を賭けて、生徒たちは戦う。
それぞれの、未来のために。