空京の、冒険好きの学生が集まる店「ミス・スウェンソンのドーナツ屋」、略して「ミスド」。この店には、学生たちの力を借りたいと思う人が相談にやって来ることがあります。
「うちのキャンプ場でちょっと面倒ごとが起きていてね。解決のために協力してくれる学生を探しているんだが」
今日店を訪れたのは、ツァンダ近郊の森でキャンプ場を営んでいるモーリス氏です。
「少し前から、キャンプ場に泊まるお客さんが誰かに……いや、『何か』かも知れないんだが、とにかく、色々とイタズラをされる被害が繰り返し起きていてね。これから夏休みで書き入れ時だって言うのに、苦情や予約のキャンセルが続いているんだよ。
イタズラと言っても、カレーの鍋にいつの間にか水が足されてジャバジャバになっていたとか、摘んで来た木イチゴや、置いておいたお菓子がつまみ食いされたとか、カギをかけたはずのバンガローにいきなり何かが入って来て、寝ている皆を踏んづけて行ったとか、森の中で迷わされたとか、そうたいしたものじゃないんだ。少なくとも、人が怪我をしたり、物を壊されたりはしていないんだが、楽しいキャンプを邪魔されたと思うお客も多くてね……」
モーリス氏は大きなため息をつきました。
「キャンプ場のスタッフが何人か、森の中に消えて行く、すばしこい小さな人影を見てる。森に住むものに詳しい人の話だと、妖精パックじゃないかと言うことなんだが」
パックは森に住む、たいへん身軽ですばしこい小妖精です。イタズラ好きですが、弱い者や恋人たちには恩恵を与えることもあり、悪しき存在ではありません。
「妖精であれば、俺たちがキャンプ場を作る前から森に住んでたんだろうから、退治したり追い払ったりはしたくないんだ。あっちも根は人間に対して友好的な妖精だし、単なるイタズラか、仲間に入りたいけどどうして良いか良くわからなくて余計なことをしてしまうって感じで、俺たちを追い出したくて嫌がらせをしているというわけではなさそうなんだな。だから、上手く共存できるように、何とかお客さんたちに対してイタズラをしないように話をつけたいんだが、最初の頃に怒鳴りつけて嫌われたんだろうな、俺たちが姿を見せると逃げてしまう。
そこで、君たちにお願いなんだが、うちのキャンプ場でサマーキャンプをやって、パックが姿を現したら、足止めして説得してくれないかな。どうも楽しそうにしていると寄って来るようだから、パックが現れるまでは、普通にキャンプを楽しんでいてくれて構わないから」
モーリス氏のキャンプ場では、バーベキューはもちろん、近くの清流での魚釣りや森での木イチゴ摘み、ファイヤーストームなどが楽しめますが、パックの説得に協力してくれるなら、キャンプ場の利用料や食材費は無料にしてくれるそうです。タダでキャンプを楽しむチャンス、と言えなくもないですね。
ただし、パックを怒らせてしまうと大変なことになる、と、モーリス氏にパックのことを教えてくれた人は言っていたそうです。モーリス氏を助けるどころかキャンプ場が潰れてしまった、なんてことになっては大変です。あまり手荒なことはしないよう、くれぐれもご注意を……