うららかな昼下がり。
ここ――蒼空学園・野原キャンパスの庭園では、教師達が一角に集まり弁当箱を広げていました。
その表情が晴れやかかといえば、そうでもないようで。
「では、本日も宿直の者は2名置くのですね?」
他の教師の声で、宿直に選ばれた2名は深い溜め息をつきました。
「音楽室、図書室、学食を……徹底的に見回るのですか……」
「あの、幽霊が出るという部屋を……」
◇ ◇ ◇
その様子を――。
庭園近くの慰霊塔からこっそりと覗く2つの影がありました。
2年生の鹿島シイナと、彼女のパートナーで守護天使のナナ・サイレントノーム。
共に女生徒ですが、シイナは凛とした容姿。ナナは絵本の天使が抜け出してきたかのような愛らしい容姿をしています。
「聞いたか? ナナ」
言うが早いか、シイナは目を輝かせてナナに向き直りました。
「今こそ、我々蒼空学園の正義が試される時が来たのだ! という訳で、今晩学校に行くぞ」
「……て訳って、どんな『訳』ですかっ!? シイナさん」
ていっ!
ナナは手持ちの教科書を丸めて、後頭部をはたこうとします。
その攻撃をサッとかわすと、シイナは高らかに笑い、教室に向かって駆け出しました。
「私は作戦をつめる。ナナはこれを見て、段取りを頭に叩き込んでおけ!」
言って、メモ帳を空高く放り投げ。
さて。
ナナが受け取ると、紙面には以下のような文言が書かれてありました。
『作戦名:夜更けのゴーストバスターズ
開始時刻:午前零時
目的:幽霊の正体を暴く。
方法:
1.幽霊を目撃地点に沿って探しつつ、現場検証。
物的証拠により、幽霊の正体を推察。判明した段階で引き上げる。
【経路】音楽室→図書室→学食
2.以下は、「有事」を想定。
万一、幽霊遭遇時はまず交渉。学園からの退去を勧告。
交渉決裂時に攻撃開始。
撃退不可能な場合は、鹿島シイナ所有「シャンバラ製手榴弾」で敵を粉砕。
備考:
1.幽霊に手榴弾が有効かは、甚だ疑問。
2.上記使用の際は校舎半壊の恐れがある。隊員は安全地帯へ速やかに退避。
以上』
(あんの、爆弾オタク〜〜〜〜〜〜ッ!!)
メモ帳を閉じたナナは、額に手を当てこめかみをぴくつかせました。
そう、シイナはただの女の子。「爆弾オタク」なだけなのです。
こんな作戦を立てても、所詮は常人。彼女1人の力だけでは手に余ることでしょう。
けれど相手は石頭。他人の意見に耳を貸す、などということは到底有り得ません。
悩んだ挙句、ナナは携帯電話を取り出すと、覚えている限りのアドレスにメールを送るのでした。
『す、すみません、どなたか!
一緒に真夜中の学校で幽霊退治……というより『幽霊捜索』を手伝って下さる方、いらっしゃいませんか?』