笑顔、泣き顔、すまし顔。――まるで、子供たちの素直な表情のよう。
真っ白な雪人形に命が灯っているように見えて、豪雪の街の雪景色も少しだけ、ほっこりと温かになります。
今日は、【バランド雪人形祭り】の最終日。
シャンバラ屈指の豪雪地帯に位置する辺境の街・バランド。普段は訪れる人も少ないこの街は今、観光客で賑わい、活気づいています。
一週間にわたる【雪人形祭り】。大小様々、表情も装飾も様々な雪人形たちが街を埋め尽くすように並べられています。雪人形は街の住民が作るものもありますが、多いのは町や近隣から招待されてやってくる子供たちの作った、可愛らしいものです。また街の郊外には、雪像作りに意気込む有志が作った巨大な雪像が幾つか並べられ、こちらも見ものです。最終日の今夜は、展示された雪人形一つ一つにランタンを持たせ、街全体がライトアップされるのです。
その昔、この地に隠遁して傀儡に命を吹き込む術を研究していた老呪術師が、雪人形を術で動かして親を失った子供たちを慰めたのが、祭りの起源だと言われています。
そんな中。
「おいっ、今、その雪人形、動かなかったか!?」
「おいおい、何バカな……、なっなんだぁ!?」
「うわああ、何だこりゃあ! こ、こっちに来るなあっ!!」
突然、街中の雪人形がわらわらと動き出したのです!
雪人形たちはまるで子供が遊ぶように、雪玉を人に投げつけたり、家の屋根や木の雪を落として住民にかけようとします。
時同じくして、雪像を展示する郊外で、積雪を震わすような地響きと、悲鳴が上がりました。
展示場に並べられていた中で最も大きな『山の巨人』像が、動き出したのです!
「くらえっ! ……なんだ!? 効かない!」
たまたま祭りを見に来ていた魔法使いが、炎の魔法で攻撃しました。が、雪の巨人は片腕を落としたものの、次の瞬間、周りから雪の塊が引き寄せられるように飛んできて、新しい腕になったではありませんか。
攻撃を受けるたび、周りにある雪を吸収してその体を修復しながら、その足はゆっくりと街へ向かっていきます……!
その頃、街中を奇妙な噂が走りました。
「あの子の祟りだ……3年前に雪崩で死んだ、ナーリルの祟りだ……!」
「いや、あの子自身じゃないかも。確か、あの子の父親は呪術師だったはず……」
この異常事態に、街の人々は皆屋内に避難しました。
夜になったらランタンを雪人形に持たせる役目を果たすはずの子供たちは、街で一番安全な公民館に集められていました。
そんな中、一人の子供が不思議なことを呟きます。
「……雪人形の中に、ナーリルがいた。僕見たんだ、あの雪人形は……」
街に溢れる、動き回る雪人形、街へ向かう巨大雪像。
いつしか、雪まで降り出していました。人々は寒さと恐怖とで、家の中で震えています。
この怪現象は、本当に、死んだ子供の祟りなのでしょうか……?