「機晶姫が暴走し、遺跡調査団を壊滅させたというのは本当ですか?」
テレビには、マイクを持ったリポーターと、ツァンダの病院に収容された遺跡調査団のニコロ・フランチが映っていました。
ニコロはリポーターの言葉に、沈痛な表情でうなづきます。
彼の率いていた調査団は、先日、シャンバラ大荒野の西に位置する白砂の砂漠で、新たな遺跡を発見しました。
しかし、いざ遺跡の扉を開いた途端、調査団メンバーの機晶姫ジョゼが暴走し、調査団を壊滅させてしまったのです。
「急にジョゼの体が白く発光して、砂漠の中からモンスターが現れたんです。
暴走したジョゼはモンスターと共に僕らを攻撃し始め……そして、クラリナを……」
クラリナとは調査団メンバーの一人です。
無感動で常に機械的なジョゼを、親友のように扱っていたのはクラリナだけでした。
ジョゼは、そのクラリナを拉致したまま行方をくらませているのです。
「なるほど――では、それ以前に何か変わったことは?」
「変わったこと……
そういえば、クラリナと僕が結婚することを伝えた頃から、ジョゼの様子は少し変だったような……」
と、病室のテレビに臨時ニュースが流れ、ニコロの視線はその映像に釘付けになりました。
それは、タルヴァという町がモンスターに襲われていることを伝えるニュースで――
そこにはモンスターと一緒に、ジョゼの姿が映っていたのです。
◇
白砂の砂漠のそばに佇む町、タルヴァ。
この町が、ジョゼと昆虫のようなモンスター『シュタル』の大群に襲われたのは今朝方のことです。
モンスターの接近に気付いた住民たちは、すぐに近くの山へと避難を始めたのですが……
町は、あっという間にモンスターで埋め尽くされ、何人もの人が町に取り残されてしまったのでした。
住民が避難した山。
そこには、町に滞在していた放浪の民・ヨマの一団の姿もありました。
「あの機晶姫が原因だっていうんですか?」
「……ぅむ」
ヨマの青年の問いかけに、難しげな表情で応じたのはヨマの長老です。
「怒り……あるいは怨み、欲。なぜ魅入られてしまったのかは分からぬが――
あれは砂漠の精霊の一部を身に宿してしまっておる」
長老によれば、シュタルたちは機晶姫ジョゼに巣食う精霊の力によって形を保っているのだそうです。
そのため、機晶姫ジョゼを倒せば、シュタルたちも消えるといいます。
「……確実な方法は、それしかない」
やはり難しく顔をしかめた長老の視線の先では、
取り残された家族や友人を心配する人々が、それぞれ不安に押し潰されそうな様子で町を見下ろしているのでした。