ザンスカールの東部にあるパラミタ内海に、【灯台島(とうだいじま)】という島があります。
その名の通り、大きな灯台がポツンとあるだけの小さな島で、誰も住んでる人はいません。
昔は灯台を管理する住人もいたのですが、長期間光を発し続ける『魔法の水晶玉』が光源になってからは、誰もいなくなってしまいました。
「海だっ♪ 海だっ♪ ウニとかサシミとか、いっぱい食べたいなっ♪」
灯台島に向かう船の舳先で、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)はのんきに歌を口ずさんでいました。
一週間前に光が消えてしまった灯台の復旧依頼を受けた生徒たちを乗せ、船は進んでいきます。
夜間の航海の要となる灯台ですから、一刻も早く復旧させなければなりません。
「リンネちゃん、舳先でフラフラしとると危ない、海の藻くずになっちまうぞ」
軽く注意したのは、今回の依頼主【イーハブ】老人です。
褐色に焼けた肌と長い白髪と白ヒゲが印象的なおじいさんで、地元の船乗り組合の組合長さんだそうです。
イーハブ老人の予想では、魔法の水晶玉に何かトラブルが起こったのだろうとの事です。
「ほれほれ、リンネちゃん。ワシのそばが安心じゃ。こっちへ来なさい、ぎゅっとワシが支えておくからのぅ……」
なんか調子に乗ったイーハブ老人が腰の手を伸ばしてきたので、リンネは火術でかるーくローストしてあげました。
老人は大人しくなりました。
「灯台の光も大切だけど、リンネちゃんの目的はパッシーなんだから……!」
実のところ、リンネにはもうひとつ目的がありました。
この一週間、近海では巨大な生物の姿が目撃されており、パラミタ内海の怪獣【パッシー】と話題になっています。
もっとも、目撃されているのはパッシーだけではなく、内海を根城とする蛮族【サハギン】の姿も目撃されています。
灯台の光が退けていた魔物たちが、近海にまで押し寄せて来ているのかもしれません。
「いっぱい写真を撮って、リンネちゃん、有名になるんだもんっ!」
そんな事は微塵も気に留めず、リンネはカメラを握りしめてコーフンしているのでした。