イルミンスール学園内の何処か。
木々のにおいが溢れる空間に、浮かぶ姿が一つあります。
短めの学ランをまとい角帽を被った、小さな地祇である洲崎・弁天町(すさき・べんてんちょう)です。
十代の少年を思わせる風貌の彼はうなだれ、
「皆、昭和の心を忘れている……」
呟き、あたりを力無く行ったり来たりしていましたが、やがて彼は面を上げ、
「だが、わしは忘れておらんのじゃ!」
力強く拳を握り、震えながらに気合いを露わにしました。そんな彼が見据えるのは学園内を歩く少女たち。そして彼女らとともにいる男子生徒。
「昭和とは何でもいたずらで許された時代なんじゃよ……」
そのグループに彼は近寄っていきます。五十メートルあった相対距離が四十を越え、三十になった時です。
「昭和とはつまりスカートめくり……!」
彼は意気をこぼすと両の手を振りあげました。
直後、前方の男子生徒は足を止めて、
「とうっ!」
「へ?」
周囲にいる女生徒のスカートを一気にめくりあげました。
「きゃああああああああああああ!」
「何するのよ馬鹿あっ!?」
いきなりの行動に女性たちは叫びをあげ、即座に不埒な輩への迎撃体制に移りました。
「はっ!? ……俺はいったい何を――ってぎゃああ!」
女性二人からの全力衝撃波を受けた男子生徒は悲鳴を上げて吹っ飛んでいきました。
それを三十メートル手前から見ていたはなまるは微笑を浮かべて頷き、
「そうじゃそうじゃ。おっぱいタッチとスカートめくりは吹っ飛びギャグで相殺されるのじゃ。これぞ昭和! ……では、ドンドン行こうかの」
控えめなガッツポーズをしてその場を去りました。
さて、これから彼を放置しておいてよいものでしょうか?
彼自身は罪悪観もなく、到って真面目に行っているようですが、このままではそれこそ罪もない女性がパンツを強制的にアピールしてしまうでしょう。
さらに彼は先の男子生徒のように必ず近くにいる男性を操ってめくりを実行します。
そして彼の力にはもう一つ、一時的に性別を転換させてしまう秘術があります。それも服装まで異性ものにしてくれる親切仕様で。
今はまだ使用していませんが放っておけば増長して乱発し、より過激なエロを周囲にぶちまけていくかもしれません。
特に男性は生まれて初めての経験をなさってしまう危険性が存在します。
そして女性に近しい男性ならばいらぬ誤解や軋轢を受ける可能性があります。
洲崎の力は人を極々短時間しか操作できない代わりに逆らうことはまず不可能です。
洲崎弁天町という、昭和の精神を心に刻む地祇を貴方たちはどうしますか?