百合園女学院

　その一週間、パラミタは記録的な寒波に見舞われていました。

「くしゅんっ」

　その寒さから身を縮ませるようにしながらあたたかな暖房の効いた校長室で、資料整理を手伝っていた卜部　泪（うらべ・るい）は、ふと聞こえてきたくしゃみに振り返りました。
　見れば、彼女の任された資料整理を手伝ってくれている少女、雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）がハンカチを口許に当てて、鼻をしきりに気にしています。

「風邪ですか？　サンダースさん」
「うう……そうかもしれません。どうも今朝から調子が悪くって。最近冷えますし、あたたかくして寝るよう気をつけてはいるのですが」
「寒いですからね、お大事に。──ああ、そうそう」

　ひょっとしたら、風邪とも違うかもしれませんし。泪が言うと、雅羅は首を傾げます。

「インフルエンザとか、そういうものですか？」
「いいえ。もっと、変わったやつです。一昨日の大雪はご存知ですね？」
「ええ、なんでも建設中の新しい寮が骨組みから、雪の重みで折れて崩れたとか」
「その、崩れた寮の地下になにやら、封印されてたらしくって」
「封印？　精霊かなにかですか……ふぁっ」

　もう一度、くしゅん。鼻をすすりながら、雅羅は泪に、話を続けてください、と仕草で示します。

「どちらかというと、地祇に近い存在みたいです。こちらともコミュニケーションがとれていますし、なんでも、出てきた本人が言うには『絆患いの神』だとか」
「きずな、わずらい？」
　
　今は研究棟の地下に隔離されているその封印されていた存在は、どうやら本人としては不本意な病原菌を撒き散らしてしまうらしく。
　その細菌は、深く繋がりあいひとつになった人と人の心、その結びつきの強さと個別に存在しふたつに分かれている肉体という概念の、心と体の「ズレ」に入り込み、感染してしまうのだといいます。

「それはまた、はた迷惑な……っくしゅん」
「細菌自体は症状が重い以外は風邪と同じで安静にしてあったかくしていればそのうち治るらしいんですが、他の特効薬、治療法もあるみたいです。……ただ、問題は」
「問題は？」
「その『絆患いの神』さまが言うには封印の崩壊と同時に使い魔さんがどこかに行ってしまったそうなんです。連れ戻さないことには、新しく祠なんかを建ててもおちおち、寝ていられない、ということで」

　その使い魔を捕まえないと、ってことですね。泪と雅羅は、頷きあいます。

「ところで、他の治療法ってなんなんです？」
「ああ、……その、深く想いあう相手と肉体的にも深く『繋がりあうこと』つまり──……キス、ですね」
「──はあっ？　き、キス！？」

　さあ、みなさん。寒い日を元気に皆で過ごすために、協力をお願いします。

　ごきげんよう。ゲームマスターの６４０です。今回は、寒い季節のちょっとしたハプニングの一幕をシナリオとして提供させていただきます。よろしくお願いいたします。
　今回、蒼空学園近郊にて封印を解かれてしまった『絆患いの神』さんは、自身の意思とは関係なしに周囲、それもかなり広範囲の恋人たち、互いを想いあう者たちに病気を蔓延させてしまう、そんな一風変わった性質の持ち主です。本人自身は気風のいい姉御肌の女性なのですが、この性質により「目覚めている」だけで周囲に迷惑をかけてしまい、本人としても自らをもてあましているようです。
　彼女としては再封印のための祠さえ完成すればすぐに眠りたい──予定外の目覚めで、眠いようです──ようですが、そのためには封印が解けると同時、どこかにいってしまった狐型の使い魔を連れ戻す必要があります。いたずら好きな上、その使い魔がともにいないことには封印しても無意味とのことで、皆さんはそれもまた見つけ出し、捕まえなくてはなりません。
　また、『絆患いの神』の引き起こす病気は、想いあうふたりのうち一方が感染すればもう一方には免疫が生まれ、感染することはありません。あなたが感染し、倒れるかもしれませんし、逆に倒れた大切な人をつきっきりで看護してあげてもいいでしょう。
　皆が安心して健康でいられるよう、また、『絆患いの神』が安心して眠れるよう、皆さんの力を貸してください。

・病に倒れた恋人の看病をする。

・使い魔を見つけ出す。

・封印まで、『絆患いの神』の話し相手をする。