5000年前、大戦の最中に地下深くへと逃れたドワーフの一族。
彼らは地上に出る事を禁忌とし、
他のドワーフ達との交流をも断ったまま、長い長い時を地中で暮らし続けていました。
「……雨、花、鳥、雲、太陽……空」
そんな一族の一人、トリネルは、
生まれてから一度も見たことが無い、それらのものに、
ほんの少しだけ憧れを抱いていました。
遙か昔の資料の片隅に載っているもの。
この機晶ランプで照らされる薄暗い世界には存在し無いものたち。
「……空」
トリネルが、ため息をつくように呟いたその時、
激しい音と共に大きく地面が揺れました。
◆ ◆ ◆
あなたは、何だか薄暗い部屋の中で目を覚ましました。
土の匂いが強く漂っています。
あなたは、確かヒラニプラ鉄道に乗っていた筈でした。
しかし、列車は突然の地割れに巻き込まれ転落した……
そして、あなたは割れた車体から外へ投げ出され――
そこまでの記憶しかありません。
と、部屋にドワーフの老人が現れ言いました。
「目が覚めたか……地上の者よ。
本来ならば、我々が地上と接触することは無い。
だが、お前たちの方からやってきてしまったのであれば仕方が無い。
地上に帰る道は無い。
お前はここで暮らすことになる。
ここのルールに従ってな。
ルールを守れぬ者には厳しい罰があるのだ。
それをしっかり頭に刻んでおいてくれ」
そう言うとドワーフの老人は部屋を出て行きました。
◆ ◆ ◆
「モールドラゴンが目覚めて暴れたのね……」
トリネルはルルドの元を訪れていました。
ルルドは若いドワーフで、トリネルと同じように地上に憧れていました。
今まで何度も地上を目指そうとしては失敗し、ルールを破ったための罰を受ける常連です。
「アイツが暴れた時に、地上への穴が開いたんだ」
「モールドラゴンは、また何とか睡眠薬で眠らせたけど、もう薬が効かなくなってきてる。
次にモールドラゴンが完全に目覚めたら、この村は全滅してしまうわ。
私たちごと……」
「長老たちは、それでいいと思ってる。
『我らドワーフのような技術に長けた者が地上に出ることは、それだけで騒乱を呼ぶ。だから決して我々は外に出てはならない』って言い伝えに従うつもりだ。
だけど、俺は嫌だ。
俺達は代々、この村で暮らしてきたから、外の世界がどうなってるかなんて少しも知らない。
知らないまま諦めて死んでたまるか」
「でも……どうするの?」
「穴が開いた時に落っこちてきた、地上の人たち。
あの人たちと協力するんだ」