薔薇の学舎

「まただ……」

　少女は切り立つ断崖の上から、サルヴィン川を航行する船が沈んでゆく様を見つめていました。

「どうして……ただ、歌いたいだけなのに」

　それが少女のただ一つの望みでした。
　少女が歌うと、人々はその歌声に惹き付けられました。
　それ自体はとても素晴らしいことです。天性の歌唄いといっても過言ではありません。
　ただ、単に惹き付けられるだけではありませんでした。その魔性の歌声に魅せられてしまい、我先にと彼女の元へ向かおうとするのです。
　そのため、今目の前で起きている、船の沈没事故に繋がるのです。

「ダメ……歌わないなんて出来ない……」

　天性の歌唄いである少女は、唄いたい衝動を止めることが出来ません。
　それに少女自身、歌が大好きでした。

「どうすればいいんだろう……」

　しかし、少女は人前で唄うことが出来ませんでした。
　何故なら――美しい黄金色の髪を湛える少女の身体は、海鳥の姿をしていたからです。
　少女はローレライと呼ばれていました。


　――ヴァイシャリーにある百合園女学院の女子寮。
　夜９時を回った頃、高原　瀬蓮（たかはら・せれん）は着慣れた百合園女学院の制服ではなく、可愛らしいフリルいっぱいの私服に着替えて寮を出ようとしていました。

「こんな時間にレディ一人で外出とは、いただけないな、セレン？」
「わきゃ！？　なんだ〜、アイリスかぁ〜、脅かさないでよぉ」

　玄関を出たところで、瀬蓮はパートナーのヴァルキリーアイリス・ブルーエアリアル（あいりす・ぶるーえありある）に声を掛けられ、素っ頓狂な声を上げてしまいます。
　実は、瀬蓮はアイリスが不在だったのでこっそり寮を抜け出そうとしていたのです。
　そのアイリスですが、腰に剣を帯び、腕に盾を持った完全装備の出で立ちでした。

「アイリス……どこか行くのぉ〜？」
「ああ、船頭に護衛を頼まれてね。セレンも聞いているんじゃないか、ローレライの歌声のことを」

　最近になってサルヴィン川にローレライと呼ばれる、顔は美しい少女ですが、身体は海鳥というハーピーにも似たモンスターが現れ、その魔性の歌声で船頭達を魅了し、次々と事故を引き起こしていました。
　幸い死傷者は出ていませんが、いつ出ても不思議ではありません。
　船頭達はヴァイシャリー家に相談し、ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）の名でアイリス達腕に覚えのある者に護衛を依頼していました。

「そういうセレンは、消灯時間間近なのに、どこに行くんだい？」

　瀬蓮は生粋のお嬢様で、校則などは滅多に破りません。
　その瀬蓮が寮を抜け出そうとしているのですから、パートナーとして気になるのも無理はありません。

「実はぁ、お友達から聞いたんだけどぉ〜、ヴァイシャリーの外れのパブにぃ〜、夜しか現れない歌姫が来ているんだってぇ〜。その歌声は一度聞いたら忘れられないらしくてぇ〜、瀬蓮も一度聞いてみたいと思ってぇ〜」
「ふむ……寮を抜け出すのは褒められたことではないが、ヴァイシャリーの中のパブなら問題ないだろう……本当なら僕も付いていきたいところだが、生憎護衛の依頼を受けてしまったからね」
「ありがとうアイリス〜。アイリスも気を付けてねぇ〜」

　アイリスは瀬蓮の外出先がヴァイシャリー内という事で見逃してくれるようです。
　瀬蓮はヴァイシャリーの外れにあるパブに、アイリスはサルヴィン川へ通じる船着き場に別れて向かいました。

　夜な夜なヴァイシャリーの外れにあるパブに現れるという謎の歌姫は、毎日現れるわけではなく、ふらっとやってきて歌を披露するようです。
　その歌声に魅せられた人は少なくなく、噂が噂を呼んで、瀬蓮も寮を抜け出して聞きに行くようです。
　寮の外で瀬蓮と待ち合わせをして一緒に行ったり、たまたま噂を聞いてパブで会うなどして参加できます。
　噂の歌姫と会いたい人や、一緒に歌を唄いたい人、逆に自分の歌声の方が優れていると思う人は、一度会ってみるといいかも知れません。

　また、サルヴィン川で多発している、ローレライの歌声による船の事故は、ヴァイシャリー家も解決に乗り出そうと、各校に依頼を出しています。
　腕に自信がある方は、アイリスと一緒に船の護衛を引き受けることが出来ます。
　ローレライの歌声は魔力を秘めており、耳栓をしても直接脳に聞こえてきてしまうようです。
　何らかの対策が必要です。
　目のは目を、歯には歯を、ローレライの歌声には歌声でしょうか。
　ただ、退治する場合は歌声に対抗しつつ、もう一手必要になります。

　歌を唄う場合、歌詞はオリジナルのみとさせていただきます。
　引用やパロディはご遠慮下さい。

　ただ、謎の歌姫とローレライ、現れた時期が近いことから関係があるのかも知れません。

・瀬蓮と謎の歌姫に会いに行く

・アイリスと船の護衛を担当する

・ローレライと歌声で勝負！