蒼空学園に在籍する生徒達が多彩ならば、当然、教師も地域も冒険も全ては多彩です。
「怖い、私は……己の全てが怖い……この長く美しい指は音楽ではなく、人を殺めるべく授けられたに違いない……」
そして、今回の騒動を巻き起こしたのは天に二物を与えられた美しき音楽教師。教師は暗き部屋の中央でヴァイオリンを愛撫していました。屋内だというのに白い羽根の付いた真紅のシルクハットを深く被り、神速の指捌きでショパンの幻想即興曲を間違う事無く奏でながらも、斜め四十五度の角度で目の前に置かれた鏡を眺めながら、恍惚とする姿はまさに異端の変態と言う他ないでしょう。
しかも、そんな状況で彼は別の事まで考えていたのです。それは昼間に読んだ書物。『罪と罪 罰と罰』と言う名の著書の事でした。
『罪と罪 罰と罰』
遥か昔、古の時代に描かれたその書物にはこんな事が書かれていました。英雄と呼ばれる人間は、己の正義を貫くために法や規則を破り、人さえも殺める資格を持つと言う。そして、事件は起こりました。なんと、思い込みの激しい彼は己に秘められた才能を凶器として認識してしまったのです。その才能とは……音楽的才能ではなく、その美しさ。
「この私は英雄的に美しい。この美しさは罪深すぎる。このアモソーゾな美貌、このクレシェンドな身体、このミステリオーゾな長い足。いずれ、私の美しさに絶望した大勢の人々を命を落とすだろう。……だからこそ、私は死ななければ……そうだ、オカルト霊山に棲むというヌシなら私を……」
そう呟き歩き出した彼の名前はナルソス・アレフレッド。
彼は自らの罪、そして、凶器の源である『己の美しさ』を償うべく、単身、危険地域と恐れられる東の山へと向かったのです。その山は生徒たちから通称オカルト霊山と呼ばれ、恐れられていました。なぜなら、ゴーストが出たり、ヌシと呼ばれる正体不明の生物が存在すると噂されているからです。しかしながら、蒼空学園には人道的に彼を見捨てる事の出来ない人の良い方も多数存在するでしょう。そんな学園で起こったミステリアスな教師の失踪劇……これだけ聞くと、本当に迷惑なお方ですよね。
だが、その反面、稀代の音楽家の未来が、アナタ達に委ねられている事を忘れてはならない!
もしかしたら、彼がアナタ達の為に世界最高峰の曲をプレゼントしてくれるかもしれませんしね。