ツァンダ地方の森のそばにハイムという名前の町があります。
そのハイムの町を、一組の男女が歩いていました。
「やれやれ、フランクのヤツも偉くなったもんだな」
「ぼやかないぼやかない」
楽しげに会話をしながら、ふたりは友人である商人の家に向かいます。
そうして彼らが真新しい屋敷に着いた、その時です。
屋敷の扉が勢いよく開き、青年が飛び出してきました。
「シ、シーナ! それにカズキも!」
「フランクか?」
「どうしたんです、そんなに慌てて?」
「早く逃げろ!」
青年が叫びます。ふたりもすぐにその理由に気付きました。
開け放たれた扉の奥から、いくつもの大きな影が飛んできたのです。
「な、なんだありゃ! ハチ?」
襲ってくる敵の多さに、彼らは逃げることしかできません。
町のどこからか悲鳴が聞こえました。
振り返った彼らが見たものは、町中に広がる無数のハチたちの姿でした。
それから数日後、蒼空学園にひとりの少女が駆け込んできました。
「お願いします!
町と、町のみんなを救ってください!」
シーナ・エレットと名乗った彼女はぼろぼろで、今にも倒れてしまいそうでした。
それでも気力を振り絞り、シーナは事情を説明します。
「町に、巨大なハチの大群が現れたんです」
突然のことに、ハイムの町は大混乱に陥りました。
人々の大半は外に逃げることができましたが、全員ではありません。
「逃げ遅れた人の多くは教会に避難しています。
ですが、それもいつまで持つか……」
シーナが悲しげに目を伏せます。弱っている人やケガで動けない人がたくさんいるのでしょう。
そしてシーナの体調から、彼女のパートナーが危険な状況にあることに、学園の生徒たちは気付きました。
パートナーが倒れると、シーナもまた、倒れてしまいます。
調べたところ、このハチは森に棲む凶暴な種類でした。
敵を見つけると集団で襲いかかる性質があり、針には強い毒があります。
また、この毒の治療には彼らの作るハチミツが効果的だということがわかりました。
ハチミツは、女王バチのいる巣に蓄えられているようです。
「教会と巣までは、私が案内します。
ハチミツが絶対に必要なんです!」
シーナがそう申し出ました。パートナーを助けるために、彼女も必死です。
放っておくと、自分でハチミツを取りに巣へと向かってしまいそうな勢いでした。
町全体がハチの縄張りと化している今、町に入るだけでも危険が伴います。
それでも、ハチの脅威を取り除かなければ、ハイムの町と人々を救うことはできません。
よろしくお願いします、とシーナは深く頭を下げました。