新しい年のはじまり――。
新年はやっぱり初詣から、というシャンバラに滞在する地球の人々や、地球の風習に興味のあるパラミタ人は、空京神社に新年の参拝に出かけます。
並び立つ大きな鳥居を背景に、獅子狛犬が参拝客を迎える空京神社の正月は、それぞれの晴れ着に身を包んだ人々が集まり、とても華やかです。立派な本殿にも周囲の摂社末社にも、参拝の人が途絶えることはありません。初詣の期間中は参拝券を購入すれば、御垣内参拝も叶います。
初詣客に対応する為に、空京神社では学園の女生徒対象に、巫女のアルバイトを募りました。
おみくじや破魔矢、お守りの販売、境内の掃除、迷子の対処等々、人手が必要な部分は多いのです。
パラミタという土地柄、地球の神社とは異なる部分もあり――それはおおむねゆるい方向へなのですが――それでも、初詣気分を楽しむには十分。2020年の正月もまた、空京神社は多くの参拝者で賑わうことでしょう。
ですが……。
そんな新年の祝いに満ちあふれた神社の一角には、妙に澱んだ空気が立ちこめていました。敏感な人ならば、その空気を察して近寄るのを避けるでしょう。そうでない人も、煤けた社に朽ちた鳥居……という怪しい佇まいを見れば、参ろうという気分が削がれるに違いありません。
それもそのはず。その社に鎮座しているのは貧乏神なのでした――。
福神社の奥、小さく縮こまっている貧乏神は、ぶつぶつと呟き続けていました。
「……どうせ私なんか」
そう口にするたび、瘴気が吐き出されます。
貧乏神の名は、布紅(ふく)。
ですが、今は貧乏神になってしまった布紅も、この神社に来た時には意欲に溢れた福の神だったのです。
なりたて新人の福の神、布紅に出来るのは、小さな幸せをあげること、でした。
「布紅、がんばりますよ〜」
はりきって、布紅は参拝する人みんなの幸せを祈りました。
ですが……今の空京神社には、名だたる神、地球からの立派な英霊が宿り、参拝者に功徳を施しています。きらびやかな衣装に身を包んだ英霊が、宝くじの大当たり並みの幸せをふるまう横で、つんつるてんの赤い着物姿の布紅は、宝くじの末等並みのどこにでもありそうなささやかな幸せをあげるのが精一杯。
布紅は焦ったり、申し訳なく思ったりしながらも懸命にがんばりました。
がんばって、がんばって……。だけどある日、こう思ってしまったのです。
「どうせ私なんかがあげられるのは、ちっちゃな幸せでしかないし」
「私なんていなくたって、何も変わらないんだから」
諦めや絶望が布紅の周りにまとわりついて、やがてはその形を福の神から貧乏神へと変えてしまいました。
そして福神社は、お参りすれば布紅の瘴気によって不幸と貧乏が襲いかかる……そんな貧乏社になってしまったのでした。
初詣の時、間違えて参拝する人がでないと良いのですが……。
布紅が貧乏神でいる限り、福神社は貧乏社として、参拝する人に不幸をもたらし続けることでしょう。
2020年……貧乏社にも、新しい年は訪れるのでしょうか……。