薔薇の学舎

「こんにちはー……あれ？」

　リンス・レイスの作業場へと足を踏み込んだ高原　瀬蓮（たかはら・せれん）は、首を傾げました。

「難しい顔、してるねぇ」

　いつも無表情、たまに表情を変えたとして微笑むくらいの彼が、不機嫌そうな顔をしていたのです。
　布やミシンが乱雑に置かれた大きな作業机の傍、椅子に座ったリンスへと歩み寄った瀬蓮は、

「リンスくん、こんにちは？」

　声をかけました。その時初めて瀬蓮が居ることに気付いたリンスは、驚いて椅子から落ちそうになりながらも、

「こんにちは、高原」

　苦笑するような微笑みを浮かべて、挨拶を返しました。

「どうしたの、突然」
「前にお願いしていたお人形を取りに来たよ。修理終わってるかなぁ？」
「うん、終わってる。ちょっと待って」

　瀬蓮が小さいときから大事にしていたテディベアが、ほつれてボロボロになってしまっていました。
　自分でも直そうと試みて、失敗して、それでリンスの――人形師の元に、修理依頼を出したのが先日のことでした。
　席を立ったリンスは、棚から瀬蓮のテディベアを取り、「はい、どうぞ」と渡しました。

「わぁ、すごい……ちゃんと直ってる！」
「そりゃ、俺はこれが仕事だし」
「人形のお医者様だね♪」
「素敵な称号をありがとう」
「ところで、リンスくん」
「？」
「どうしてそんな顔をしているの？」

　そんな顔、と言われて、リンスは自分の頬に手を当てますが、いまいち理解できなさそうに首を傾げました。瀬蓮は思わず噴き出してしまいます。

「……何さ。はっきり言ってよ」
「難しい顔してるの。機嫌悪そうっていうか、頭痛そうっていうか」
「あー……。ちょっと困ったことがあって。それを考えてたらこうなった、んだと思う。たぶん」
「困ったこと？」
「ん。別の依頼で人形を作ったんだけど……それが逃げ出してしまって」
「……人形が？　逃げちゃったの？」
「そう。俺、何か物作るとそれに魂吹き込んじゃうみたいでさ」

　瀬蓮は思わず自分の抱いているテディベアを見ました。つぶらな瞳が宙を見ています。動いたりは、しません。

「……大丈夫だよそのテディベアは。俺が作ったわけじゃないし」
「あ、あはは。ごめん」
「いいよ、別に。……まあ、そんなハプニングがあって、困ったなーって」
「捜せないの？」
「捜せるよ。人形にはモチーフが居てさ、その人の写真もあるし。そもそも人形自体が大きい。ただ俺、別の仕事依頼もあって抜け出すわけにもいかなくて。あーどうしよーって休憩がてら悩んでたとこだった」

　それを聞いて、瀬蓮は考えました。
　人形は大きくて、捜す手掛かりもあって、でもリンスは忙しくて。
　じゃあ、手伝っちゃおう！　と。
　テディベアを抱きしめました。

「瀬蓮がお手伝いするよ！　いつもお世話になってるしっ」
「マジで？」
「マジだよ〜、瀬蓮に任せてっ！」

　言うが早いか、瀬蓮はメールや電話で知り合いに声をかけるのでした。

◆ごあいさつ。
　こんにちは、今日も貴方の灰島懐音です！
　嘘です、はじめまして、あるいはお久しぶりです。ガイドをクリックしていただきましてありがとうございます。


◆内容について。
　今回は、人形師NPCのお話でございます。
　人形を無事に連れ戻し、また、どうして逃げ出したのか、それを突き止めてどうにかしてあげることが目標です。

　モチーフとなった人物の写真もあり、逃げたブツが人形ということで発見は難しくないはずです。
　けれど、どうして逃げたのか、それを突き止めてあげないと、また逃げ出してしまいエンドレスになってしまうやも。
　そもそもシナリオ的に未消化ですよね。
　ですので、そのあたりを皆様どうぞよろしくお願いいたします。


◆人形のこと詳しく。
　ビスクドールです。全長130cm、小学生くらいのサイズです。
　黒髪の、可愛らしい女の子です。
　完成と同時に、「ここはお外なのね！」と嬉しそうに言って、作業場から駆け出して行ってしまいました。


◆リンスくんとの関係。
　ご自由にどうぞ。サンプルアクションにも、彼の友人として手伝いに来た場合もあります。
　ですので、瀬蓮ちゃんと直接関係のないPC様でも大歓迎でございます。
　なお、その場合は彼とどの程度親しいのかを明記していただけますようお願いいたします。
　「冗談を言い合う仲」とか、「まだ会話に敬語が抜けない程度」とか、「恋してる」とか、なんでもOKです。
　なお、外見年齢17歳、外見性別女性です。性別については自称男性で、年齢ははぐらかします。
　所属校はありませんがイルミンスールで魔法を学んだことがあります。住まいはガイドの最初にある通り、ヴァイシャリー近郊です。

・お人形を捜そうかなあ。

・困ってる友人を見過ごせないでしょう？

・人形がどうして逃げ出してしまったのか気になる。