薔薇の学舎

「本当に私と一緒になってくれるのだね。テレーズ」
「ええ」
「私の過去や、世間の評判は」
「そんなもの関係ありません。理解者に恵まれない、いままでのあなたは、不幸だった。ただ、それだけのことです。私は、あなたを理解して、あなたを守ります」
「私の妻たちは、私の愛した相手はみな、不幸になっている。命を落とした者もいる。彼女たちの周囲の者もだ」
「知っています。わかっています。誰よりも、私があなたのことをわかっています」
「きみだけが私の味方だ。だが、きみの父上が」
「父がどう言おうと、私の気持ちは揺らぎません。私は、あなたを愛しています」


「婚礼はぜひ阻止していただきたい！　これは私個人ではなく、親族一同の願いです。アンベール男爵は、テレーズをかどわかし、我が一族の生き血を吸うつもりなのです」
「まったく穏やかではありませんね。しかし、お話はよくわかりました。私ができることをやってみるとしましょう」
「ルドルフ・グルジエフ神父様。ありがとうございます。本当に困った者には、誰彼と関係なく、救いの手をさしのべてくれる神父様が、地球からマジェスティックにこられたという話は、真実だったのですね。ここへきて、よかった。それでは、今日は、これで失礼いたします。兄上のニトロ様にもよろしくお伝えください」

　父なる神よ。
　半ば崩壊し、それでもその瓦礫の中から再び立ち上がろうとする民たちの住処、このマジェスティックに、我ら双子、グルジエフ兄弟をお導きくださったことを感謝します。
　今日もまた、私の住む、中央教会とは名ばかりのうち捨てられたあばら家に、救いを求める神の子が訪れました。
　悪魔が去り、彼のたくらみが無に帰した、この地には、また、新たな悪がはびこらんとしている様子です。

「ルディ様。なにをしておられるのですか？　いま、帰られたお客様は、どなたです？　（私に隠し事してんじゃねぇ、この自分教のインチキ神父が）」
「隠し事など、なにも」
「隠さなくてもいいではありませんか。ぼくにも教えてください。（ドアホ。さっさとその手帳みせろ）」
「きみが自分をぼくと呼ぶのは、どうかと思うな。私のこともルディと呼んではいけないと、何度教えても、きいてもらえないね。かわいらしく男装をしたって、きみの本性はお見通しだ。きみは、世にも汚らわしい女族の一員です」
「そんなあ、ぼくはシャンバラ人の少年であなたのパートナーです。ひどいことをおっしゃらないでください。（自称、神父のクセに、女性差別主義者のおまえの方こそ、どうかと思うよ、だ。私を少年だと思って契約したこの変態め。男装は、私の趣味だ。悪いか）」
「私は少し書きものをしたい。どこか見えないところに行っていておくれ。セバスチャン」
「ご存知かと思いますが、ぼくの名前は、セリーヌなのですが、きちんと呼んでくださるおつもりは、ないようですね。（聖者とロックスター、どっちも自称って、どんな双子だ。今度はどんな揉め事に首つっこむつもりだ。勝手に廃墟に住んでるホームレスのクセに。そのうち、マジェを追いだされるぞ）」

　父なる神よ。
　兄と私をたぶらかし、我ら兄弟二人と契約を交わした淫婦セリーヌが、天使の姿で私を惑わそうとしても、その邪悪なる本性を、私は先刻、承知しております。
　しかし、兄はまだ淫婦の色香に惑わされている様子、あの兄にも、私の分別が少しはあればいいのですが。

「ヘイ。メェーン。ヨウヨウ、ブラザールディ。セリっちが台所でむくれて包丁振り回してたぜ。なになに、なにがあったかお兄さんに、話してみろよ」
「おかえりなさい。ニトロ。もう昼すぎですよ。昨夜の演奏会の後、いままでお仲間と騒いでいたのですか？　あなたの紹介だと言うことで、さっき、一人の紳士がこの教会を訪れました」
「それ、どいつ？」
「さあ、どいつでしょうか。あなたは、いったい、何人に私のことを紹介しているのです」
「まあ、そりゃあ、どいつもこいつもだ。バンドのギグにきた連中、飲み屋で一緒に飲んだやつら、街中にいるしけたツラした子羊ちゃん、とりあえず、そんな、とこかな」
「悩みごとがあるなら、弟のいる教会へ行きなさい、と」
「おう。間違ってねぇだろ。オレは、オレの音楽で、おまえは、おまえの宗教で、世界を平和にするんだ。救う相手を選ぶなんて贅沢は言わねぇよな」
「ええ。もちろん言いません。私は、母以外の全女性を除く、すべての人に幸せになって欲しいと願っていますよ」
「あん？　相変らず、ひでぇこと言ってんな」
「私は、いつも公正明大です。兄さん。人助けの依頼を受けました。ある女性が結婚をしようとしています、彼女のその愚かな行為が周囲の人々に大変な不幸をもたらすらしい。放ってはおけませんね」
「ルドルフ大神父様。めずらしく、レディを助けるのか。進歩したじゃねぇか」
「彼女はどうでもいいのです。周囲の人がこうむる不幸をみてはいられません」

　
　
　マザコン神父とバカロッカーのアホ兄弟が相談してるのを私、セリーヌがしっかり聞いていたんで、みなさんに情報をお伝えしまあーす。

１　ルディは、テレーズを説得に行くみたい。
　女とまともに話もできないクセに、うまくいきっこないです。バカ。バーカ。バーカぁ。

２　ニトロは、アンベール男爵に捨てられた、ごめん、過去に付き合っただよね、女たちに会いにいくらしいです。
　情報収集っていうより、女に会いたいだけじゃないの。短気で女好きの単細胞生物だから、婚礼の件とは別のトラブルを起こす気がします。

３　イーストエンド地区（ダウンタウン）に聞き込みに行くのもありかも。　
　美術評論家のアンベール男爵は、過去に地球や空京で何度も資産家の娘と結婚、婚約を繰り返していて、相手が死んだり、不幸なめにあったりを繰り返してきたフダつきだそうです。マジェの悪い連中ともつながりがあるらしい。そいつらを調べれば、男爵の正体がわかるかもしれませんね。

４　噂によると、アンベール男爵の秘密の手帳があるらしい。それを入手できれば、彼と取り引きできるかも。
　手帳っていうか、仲良くなった女性の恥ずかしい姿をコレクションしてるんだって、サイテーな野郎です。

５　ニセ神父のルディに相談にきた人は親族の代表らしいけど、テレーズの家はマジェステイックではかなりの名家らしいです。
　依頼人によると、「公にはできませんが、この件には、さる方の御意思も関係しております」
　なんですって。さる方、って誰？　だから、依頼人の方の素性をくわしく探っても、なんかでてくる気がするんですよね。

　私が面倒をみてやってる、ダメダメのグルジエフ兄弟の手助けをしてくれるっていう、寛大で、心優しい人がいたら、いま言った五つの情報から、どれかを選んで行動してくれるとうれしいです。
　テレーズと女たらしの色男のアンベール男爵は、婚約はしたけど、結婚はまだで、式の日取りは未定らしい。これだけ反対されてると、二人でこっそりやっちゃうかもしれませんね。

　舞台は、「少年探偵と蒼空の密室」事件、数週間後のマジェスティック（十九世紀ロンドンを模した空京のテーマパーク）。
　崩壊した中央教会の廃墟に住みついた自称、ロックスターと神父の双子の青年、ニトロとルドルフのグルジエフ兄弟と彼ら二人のパートナー？　の男装好きでおしゃべりなシャンバラ人の少女セリーヌ。
　兄弟のもとを訪れた迷える子羊を救うのは（さらに迷わせるのは）あなたです！

こんにちは。かわい家です。

本シナリオのジャンルは、ミステリです。ハードボイルドです。
シナリオの目的は、ハードボイルドな雰囲気を楽しむことです。

今回は、グルジエフ兄弟が登場する「ぶーとれぐ」の第一作めになります。シリーズになるかは、いまのところ未定です。
これまでの少年探偵シリーズとは、同じ作品世界が舞台ですが、今回は、くると、あまね、ノーマンは、登場しません。（名前はでてくるかもしれませんが）

扉絵にジェイダスがいるのは、ルディが彼を尊敬し、部屋に写真を飾っているからです。

ハードボイルドとはなんぞや？　と思われるＰＬの方もいるかもしれませんので簡単に説明すると、現実的な作品世界（現代のニューヨークとか）で自分なりの正義と誇りを胸にひめた人物（多くの場合、私立探偵）が、
世間の常識、しがらみに抗いながら、己の正義、誇り、心情を貫き通す物語。といったところです。

今回のシナリオの参加ＰＣは、基本的には、グルジエフ兄弟が依頼された、アンベール男爵とテレーズ嬢の結婚阻止に協力していただくことになります。
そのやり方については、ガイド内でセリーヌが示した五つの中から、一つを選んで行動していただく形になります。

もちろん、上記の五つ以外の行動を選んでいただくのも可能ですし、男爵側に協力してこの結婚を成功させようとするのもＯＫです。

ハードボイルドらしく、胸に熱い想いをひめて、マジェスティックにやってきたＰＣとして、キザなセリフを口にしたり、己の哲学に従って行動したりしてくださればいいかと思います。

別にムリにハードボイルしなくても、いつものＰＣのキャラクターで、事件にかかわるの当然、アリです。

みなさんのアクションが世界（お話）を創りますので、アンベール男爵に関する情報、はたまたテレーズや彼女の一族に関する情報の持込み（創作）も歓迎します。

少年探偵シリーズに参加されてこられた方は、ぜひ、引き続き、これまで、かわい家のシナリオに参加されたことのない方も、この新しい物語の始まりを機会に、マジェスティックへおこしくださいませ。
それでは、ルディ（母親以外の女嫌い、少年歓迎）、ニトロ（女好き、世界にＬＯＶＥ！　のロックンローラー）、セリーヌ（少女の少年、おしゃべり）と、みなさんのお越しをお待ちしております。

・ルディとテレーズの説得に行く。

・ニトロと男爵との過去のある女性に会いにいく。

・男爵のたくらみを成功させる。