シャンバラ地方はその中央、シャンバラ大荒野には波羅蜜多実業高等学校――通称パラ実という学校がありました。
かつては、表向き「不良の更生」、裏では人体実験や麻薬栽培といった裏社会によって作られたそれは、とある事件によって校舎が全壊し、生徒は散り散りに別れ、今ではただの廃墟です。
とはいえその組織自体は存続しており、生徒会によって様々なルールが作られ、それなりに集団としての体裁は保たれていました。
昨今の情勢により、その生徒会は内乱によって倒され「新生徒会」が発足されたりもしましたが、パラ実を構成するルールが全て改定されたわけではなく、実際は「統治者が変わっただけで中身変わらず」状態です。
そして、その変わらなかったルールの中に「四天王」の存在がありました。
「荒野のどこかにすごく硬派な不良さんがいるんだって。今からそこに行こうよ」
「……その不良に会いに、か?」
「会いに行くんじゃなくて、遊びに行くんだよ!」
「不良相手に遊ぶって、何するつもりなんだお前?」
「硬派な不良さんを相手にやることといえば『熱血硬派ごっこ』に決まってるじゃない!」
「は!?」
そのような会話を交わしながら、最近契約者となった高島 要(たかしま・かなめ)とそのパートナーのアレックス・レイフィールド(あれっくす・れいふぃーるど)は荒野を歩いていました。
「パラ実には割と珍しい硬派な不良がいる」という噂を聞いた要は、その不良を探し出し、ケンカして遊ぼうとしていたのです。
「いやおかしいだろ、それ! 不良と関わるのは危ないからやめろ、ってわけじゃねえが、何でそこで『ケンカして遊ぶ』って発想に繋がるんだよ!」
「え、だって荒野の硬派な不良だったら全員が学ラン着て殴り合いとか運動会とか熱血に遊んでるのが普通じゃない」
「いや普通じゃねえよ! そんなのが普通であってたまるかよ!」
「まあパラ実って不良の総合商社だしね。大丈夫、不良さんは絶対にいるよ!」
「人の話聞けよ……。確かに不良ばっかりってのは間違いじゃねえけどよ……」
「まあそんなことはどうでもいいから、早く剣出してよ、アレックス!」
「へいへい……」
うなだれながらアレックスは自らの体から刃渡り3メートル以上はある超巨大剣――明らかに不良とケンカするための武器ではないそれを取り出し、要に渡します。
「よ〜し、それじゃ行っくよ〜! 目指せ、硬派の巣窟〜!」
「……場所、知ってんのか?」
「知らない! でも適当に歩いたらいつかは出会うのが普通だから問題ないよね!」
「んなわけあるかー!」
そんなこんなで、2人は荒野をさ迷い歩きます。
そして2人は知りませんでした。
パラ実には「硬派番長」を名乗るD級四天王が本当に存在するということを。
「なに。よくわからん2人組が俺たちを探している、だと? ふん、どこの馬の骨だか知らんが、この硬派番長のげんだにケンカを売ろうとはいい度胸じゃないか……」
荒野のどこかでげんだと名乗るその男は舎弟――E級四天王の5人に召集をかけました。やってくる2人に世間の厳しさを叩き込もうというのです。
「おおやま、むらかみ、たかはし、ごとう、まつもと。お前たちに命令だ。100人ずつ、合計500人の全舎弟を引き連れて、その2人組を返り討ちにしてやれ。俺も直属150人全員出す」
「押忍ッ!」
かくして、大荒野を舞台に不良どもの大バトルが繰り広げられようとしていました。
「ところでげんださん。俺たちの名前がひらがななのはどうにかなりませんかね?」
「ならん! これがロマンだからだ!」
(どんなロマンだよ……)
……こんな連中を相手に、あなたはどのように遊びますか?