5月1日。
平和なツァンダの昼下がり。ツァンダの地祇の一人、カメリアとパラ実の自称ヒーロー『正義マスク』、ブレイズ・ブラスはオープンカフェで道行く人々を眺めながらお茶を飲んでいます。
カメリアは手元のスケッチブックと鉛筆で、歩き過ぎる人々の似顔絵を描くのに夢中。
ブレイズは何か考え事をしているのでしょうか、冷めたコーヒーを前にボンヤリとしています。
「のうブレイズ、今日はいい天気じゃのう」
「ああ」
「最近何か面白いことはあったか?」
「ああ」
「……紙がなくなった。この紙もらってもよいか?」
「ああ」
こんな調子です。
カメリアはというと、そんなブレイズが持っていた紙束に次々と似顔絵を描いていきます。
街に何度も出入りして知り合いも増えてきたカメリア。知り合いの似顔絵を描いたら紙の裏にその人の名前を入れて、ついでに何かメモ書きをしているようでした。
数十分後。
カメリアが一息つくと、ブレイズが持っていた紙束はほとんどなくなっていました。
「――ん、なあカメリア。ここにあった紙束、知らねぇか?」
「何を言うとる。さっきお主がいいと言うから似顔絵に使ったぞ」
「え? 使っちまったのか!?」
「え? いかんかったのか!?」
その時でした。
カメリアが心込めて描いたたくさんの似顔絵。それが一枚一枚、その人そっくりの姿に変化したのです。
「え?」
「え?」
呆気に取られる二人をよそに、その似顔絵達は街に散らばって行ってしまいました。
「……ブレイズよ、あの紙束は何だったんじゃ」
「……実家の蔵にあった『似顔絵ペーパー』……似顔絵と名前や詳細を描いておくと、そいつそっくりの姿に化ける……どうやって処分しようか考えてたんだが……」
ブレイズとカメリアは、とりあえず僅かに残った数枚の白紙を回収しました。
ところで、カメリアが似顔絵の裏に何を書いていたのかと尋ねると――。
「いやあ、知り合いを嘘で騙して驚かせようと思って、裏にそいつに関するネタを書いておいたのじゃが。
どうやらそれに準じて動くようじゃの、あのニセモノどもは」
「……嘘は良くないぞ」
「え、だって5月1日は嘘をついてもいい日じゃろ?」
どうやら、カメリアはエイプリルフールの日付を勘違いして覚えてしまっているようです。
「へぇ、そんな日があったのか。地球の文化は良く分からねぇな」
そもそもブレイズは、今始めて知ったようです。
似顔絵が変化したニセモノ――フェイク達は、その嘘メモに従って行動しています。
女性に声もかけられないはずの人が手当たり次第にナンパしていたり、
いつもは善人でおとなしいはずの人がやたら粗暴な振舞いをしていたり、
活発で明るいはずの人が、やたら暗く落ち込んでいたり、泣き叫んでいたりしています。
中には、街の人に迷惑をかけているフェイクもいるようです。
カメリアは皆を驚かそうとしてやや派手なネタを書き込んでいたようでした。それが現実になるとは、普通はあまり考えませんから。
中には、もちろんあなたのフェイクもいます。このままでは、あなたの顔で何をしでかすか分かりません。
どうにかしてフェイク達を回収して下さい。
「――なあ、あそこに俺そっくりのフェイクが暴れているように見えるんだが」
「ああ、あれは闇の力に飲み込まれたブレイズ(という設定の)『ダーク正義マスク』じゃ」
「――で、あっちにはカメリアそっくりなのがいるようにも見えるんだが」
「ああ、あれは長い年月の間に分離した儂の影の部分(という設定の)『カメリアシャドウ』じゃ」
「何そのひどい嘘設定」