――イルミンスールの森の中にある、小さな小屋。依頼を受けた契約者たちは依頼者の待つこの小屋へとやってきていました。
依頼者の名前はミリアリア。パラミタに生きる魔女である彼女は、幼い頃に唯一の肉親である妹のモニカと生き別れ、今は資産家であるヴィゼルの援助の元、魔法の研究を続けている女性です。
今回、ミリアリアが契約者たちを自分の小屋へ呼んだ理由は、テーブルの上に乗っていました。――テーブルの上には、まるで棺桶のような箱が横たわっています。
「まぁ簡単に説明すると、この中に入っている機晶姫を動かすための手伝いをしてほしいのよ」
……ミリアリアによると、この箱には機晶姫が入っているとのこと。顔は中性的であり、性別は不明のようです。
そしてこの箱はシャンバラ大荒野にある、“機晶姫のゆりかご”と呼ばれる遺跡から、ミリアリアの知り合いの冒険者が持ってきたそうです。
しかし、この機晶姫には動かすために必要な“中枢パーツ”が足りないらしく、それを“機晶姫のゆりかご”から取りに行くのを手伝ってほしい、ということだそうです。
「私自身この子に興味があってね、ぜひともお願いしたいところなのよ。――私、魔女とはいったものの研究メインでね……戦闘がからっきしなのよ、これが。あははははは……」
ここまで説明したミリアリアでしたが、今まで気楽そうだった表情が一変、真面目モードになりました。
「――で、なんかこの機晶姫、きな臭い感じがするのよ。実はこの子をうちで預かる前、箱を持ってきてくれた冒険者が鉄仮面を着けた騎士に襲われちゃったのよね。ちょうどその時は私が急いで防御結界を張ったから、怪我だけで済んだんだけど……」
それはまるで、冒険者から機晶姫を奪おうとしていたらしく、それを聞いてミリアリアは機晶姫をあまり長く保管しているわけにもいかない……と踏んだのでしょう。そのため、今回契約者たちの協力を募ったようです。
「襲われたのが一昨日の夜。そこから今日までは私が張った結界のおかげでなんとか奪われずにはすんでるけど……この結界、出発する頃には効果が無くなっちゃうのよね。もう一回張るにしても、必要な材料が足りてないし……」
と、少し思案していたミリアリアでしたが、すぐにあっけらかんとした表情を浮かべました。
「ま、なんとかなるわよね! とにかくみんなにやってほしいのは私の出資者であるヴィゼルさんと一緒に“機晶姫のゆりかご”へいって、この子用の中枢パーツを取ってくること、私と一緒にこの子の護衛をすること、あと護衛する人にはついでに周辺哨戒を兼ねた防御用結界の材料調達もお願いしようかしら。特に防御結界材料は起動後にも使うと思うから、たくさん持ってきてもらえると嬉しいわ」
きっとどうにかなるだろう、とミリアリアは楽観的です。しかし、箱の中の機晶姫に一つ微笑むと、集まった契約者たちにこう言ったのでした。
「ぜひこの子には、楽しいこの世界を見せてあげたいから……お願いね」
その表情には、どこか慈愛と寂しさが浮かんでいるのでした……。