イルミンスール魔法学校の近代西洋儀式魔術学科。
そこの教員たるアーシアは、溜息をつきました。
「ふう、暇だなあ……」
実践魔法学。健全な肉体と実践による魔法への理解を目指し、あちらこちらへ実習に出る科目です。
しかし、それに理解を示す生徒はあまり多くないようです。
居ても大体は実習に出てしまうため、教員たるアーシアは、必然とヒマになってしまいます。
「ここは、体験実習を積極的にやっていくべきなのかなー」
そう言いながら、アーシアは髪を弄り始めます。
あまり危険なものは責任的な意味で問題ですが、ちょっと危険くらいなら実践魔法学の楽しさを分かってもらえるかもしれません。
手元の紙束をペラペラと捲ると、アーシアは目的のものを見つけます。
「マンドラゴリラ、か……うん、これならイイ感じかもっ」
そう言って、アーシアは満足そうに頷きます。
アーシア・レイフェル。
27歳、女性。
女子の制服を着ても違和感の無い、子供っぽい外見の女性。
女子の制服を違和感無く着こなしながら、アーシアは生徒のたくさん集まりそうな広場へと向かっていきます。
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「さて、皆様お立会い!」
アーシアは元気に叫ぶと、ローブをバサリと翻します。
「私は実践魔法学の素敵でプリティな先生! アーシアだよ!」
アーシアは近くを歩いている生徒に向けて、メガホンも無しに地の大声で呼びかけます。
「今日は皆に素敵な実習体験をご用意したよ。さあさあ、聞かないと損するゾッ」
そう言うと、近くを歩く生徒に何かを複写した紙を配り始めます。
危険な魔法植物を、皆で駆除しよう! と書かれた紙には、その対象の魔法植物について書かれています。
マンドラゴリラ。
引き抜くとゴリラみたいな声と共に、ゴリラみたいな果実が飛び出してきます。
極めて凶暴で、引き抜いた人に襲い掛かってきます。
地面に埋まっている時点では大根の葉にも似ているため、間違えて引き抜いてしまった事による被害例も報告されています。
この時期、イルミンスール魔法学校の近くにある地下洞窟に大発生する為、定期的な駆除が必要とされています。
攻撃方法は格闘。その拳と蹴りは、かなり重たいです。
アーシア先生のワンポイントレッスン。
引き抜いた瞬間に腐った卵のような匂いがしますが、結構強烈です。
発見当初は温泉卵のような味がするのではという説もありましたが、今では苦味濃縮ゴーヤー味という最終結論が出されています。
果実なので食べられますが、苦いの苦手な人はやめたほうが身の為です。
注意事項。
充分に熟したマンドラゴリラは赤く染まり、自ら地表に出てくる事があります。
この状態のマンドラゴリラは戦闘力が大幅に上昇し、目に付くもの全てに襲い掛かります。
落ち着いて対処すれば怖くないので、自信のない生徒は複数人で行動すると安心です。
見分け方としては色の他に、稼動時に動く音です。
通常のものはヒャッハー、完熟したものはウッホー、と鳴ります。
「どう? 楽しく実習して、自分の実力を試してみないかな?」
アーシアはそう言うと、無邪気な笑顔で道行く人を誘うのでした。
しかし、アーシアはまだ知らないのです。
今年はマンドラゴリラの発育が良く、想像を遥かに超えたゴリランドになっている事に……。