今週に入って少女のツァンダ家に届けられる捜索願の件数が増えました。
しかし、この情報は一般には非公開とされ、極秘で捜索が行われています。
非公開とされている大きな理由は、届出をされているのは皆、有名財閥やそこそこ名の知れているブランド・メーカー企業等の社長令嬢達だからです。そのこともあり、これはただの行方不明ではなく、連続誘拐事件かもしれないとツァンダ家内では緊張を強いられていました。
また、同じく今週に入ってからツァンダのある森でミイラの様なアンデットが出没しはじめ、あまつさえ人を襲っていくるという事件が発生しています。
そして、先日の夕方。その森近くで男性がアンデットの少女に襲われそうになっていました。
その男性は本来ならすぐに逃げ出すはずでしたが、襲われるギリギリまでその光景を見ていたと言います。
「た、たすけ……」
身なりの良さそうな少女が血を吐き助けを求めながらアンデットへと変貌したからでした。
「なんの挨拶も無しぃ?」
翌日。つまり、本日夜。森奥の古い館の自室にノックもせずに入り込んだ男に、椅子に座っていた魔女ははっきりと不快を示します。
「遊びはそろそろ止めた方がいいぞ」
「魔女が呪いの実験をしておかしいかしら?」
「クライアントが居るんだろう? あんまり遊んでいると不興を買うのではないか」
「ま。魔女への理解なんて全然無い連中ではあるかなぁ」
敵対勢力を潰したいだけの市場の縄張り争いにビジネスだと嘘をついて近づいた自覚のある彼女は小さく唸りました。
「じゃぁ、さっさと始末しなきゃねぇ」
テーブルの上の水晶玉を手に取ります。
「もう一つ呪いをかけておこうっと」
「まだするのか?」
「だってぇ、あたしはぁ実験したいんだものぉ」
「ほぅ?」
「女の子達には死んでも元に戻らない呪いをかけてぇ森から出ない様に規制する。んで、アンデットの掃討を人間にやらせちゃおう」
「そして終わった頃はこの館はものけの空という事か」
「ご名答♪」
殺しても襲い掛かってくる不死族を倒すには相応の戦力が必要であり、その討伐隊を揃えるには時間がかかる。
その間にズラかって後始末は化物討伐隊にやらせ、少女たちの行方は永遠にわからないまま。という、もし少女達の行方不明が自分の仕業と知られても良いようにそんな筋書きを書いた魔女は、全身すっぽりと外套で包んだ男ににんまりと笑いました。
「ま、そんな化物ちゃんも、一時的に人間に戻る事で変化に耐えられず中からズタボロになるから、あと三日か四日くらいで自滅しちゃうけどね」
栄養も要らない強靭な肉体も、一時虚弱な人の体に戻ることで内部から破壊せしめようとの恐ろしい内容に、男は被ったフードからかろうじて見える口を一文字に引き結びます。
「では早く退散しよう」
「えーええー。そんなに焦んなくてもいいんじゃない? どうせこんな時間にこの屋敷に突撃かけてくるような人間なんていないでしょぉ? ま、そんなに気になるなら今晩にでも逃げようかしら」
仕方なく逃走準備を始めながら魔女は言いますが、男の嫌な予感は少しも拭えませんでした。