『あなた』が目を覚ますと、身体が動かない事に気付きます。
 カラカラと車輪が回る音、時折軋む金属の悲鳴に合わせて揺れる身体。
 唯一動く首を回して、『あなた』は入院患者用の寝巻を身に纏い、病院のストレッチャーのようなものに載せられ、身体をベルトで固定されている事がわかりました。
「ああ、気が付いたか」
 頭上から聞こえる声。頭を向けると、白衣を着た何者かが『あなた』をストレッチャーで運んでいる姿が見えました。
「何も言わなくてもいい。ここは病院で、君は病気なんだ。まずはそれを理解してくれ」
 白衣の何者かはそう言いながら、『あなた』を運びます。
「病院とは病気を治す場所だ。だが治す、とは簡単に言うが実際はそこまで簡単ではない。治療には何かしらを伴う必要がある。時間、金、苦痛……だがそれは必要な物だ。わかるね?」
 一体何を、と口を挟もうとしますが白衣の何者かは言葉を続けます。
「君がここにいる為には『生きている』という病気を治さなくてはならない。それには想像し難い苦痛を伴うだろう。だが私は君をきっと治してみせる。なに『治療』は初めてだが他の先生のやり方はずっと見ていた。きっと成功するだろう。ああそうさ成功するさ、失敗なんてあるはずがない。先程は少し焦って苦しませてしまったが、ちゃんと成功したじゃないか」
 白衣の何者かの言い表せない異常感に、『あなた』は必死に身を捩り逃げようとします。
 白衣の何者かが慌てて止めようとしますが、横にストレッチャーが倒れてしまいます。
 その拍子でベルトが緩み、自由になった『あなた』は白衣の何者かを押し倒し、逃げ出しました。
「ああ駄目だ戻ってこい! ここでは『生きている者』が居てはいけないんだ!」
 背後からの声を無視し『あなた』は逃げ出します。
――やがて、何処かの部屋に隠れ、息を整えつつ『あなた』は考えます。
 一体何故このような事に? 最後の記憶は眠りにつく前。そこは何時もの日常の場所で、決してこのような病院ではなかったはず。
――ふと『あなた』は思い出します。
 最近眠りについたまま目を覚まさず、そのまま死んでしまう者もいるという原因不明の病気が見られているという事を。
 もしやこの夢がその事に関わっているのでは。そう思った時、足音が聞こえます。
 扉をそっと開き覗き込むと、廊下を歩く人影がありました。
 先程の白衣の何者か、と思いましたが、自分と同じ患者用寝巻を纏った者でした。
 そして、その背後に四角い何かを被った巨大な人影が現れたかと思うと、寝巻を纏った者をずた袋に入れて引き摺って行きます。
――このままここに居ては危険だ。そう思った『あなた』は行動を開始します。
 訪れた悪夢から、『あなた』は逃れる事は出来るのでしょうか?