シャンバラ第3師団の戦いはより大きなものへと変化しようとしていた。
ヒラニプラ北東部にてワイフェン軍を打ち破った第3師団であるが、その影響は多岐にわたり、この方面の政治状況を大きく揺るがすものとなりつつある。
この戦いの勝利によって地元ラピト族との連携をさらに強固なものにしつつある第3師団に、ラピト族北方のモン族から同盟の打診がもたらされた。ワイフェン軍はこちらの方にも手を伸ばし、現在ワイフェン軍とモン族軍の戦いが開始されているような状況である。そのため、窮地に陥ったモン族はラピト族に習い教導団との同盟を考えているらしい。
これに対し、第3師団はこれを受け入れる方針で動いている。言うまでもなく、積極的な味方が増えることは望ましく、またモン族を味方につけるメリットが極めて大きいからである。モン族自体が味方になるだけではなく、そのさらに北方のラク族との交渉が可能になるからだ。
ラク族はヤンナという女性が宗教的な権威で皆をまとめているような小国家であるが、その権威は大きく、周辺部族に少なからぬ影響力を持っている。そのため、ラク族を味方につけられるかどうかが周辺政治状況に大きく影響を与えるのだ。第3師団はこれを重視し、参謀長志賀正行大佐を中心とする交渉団を送り出す考えがあるようだ。しかしながら、ラク族側がどう出てくるかは現状では不明であり、先を見据えた話し合いが必要とされる。
またモン族との同盟により航空部隊の設立が可能となるという情報もあり、これも同様に航空科主任士官角田明弘少佐が部隊設立に向け、航空科の要員を引き連れて、モン族の所に向かうこととなった。もっとも、すぐに戦力化できるわけではなく、モン族との協力関係を含めた大局的な判断が必要となる。
さらに動いてるのは第3師団だけではない。第3師団の根拠地である三郷キャンパスではシャンバラで運用可能な戦車の開発も進められているが、開発に必要な部品が奪われるという事態が起こった。現在の所、奪ったのはヒラニプラ北方荒野地帯にいる不穏勢力であると思われる。これらの勢力はパラ実を名乗っているが詳細は不明である。第3師団ではハンナ・シュレーダー少佐率いる戦闘団800名にてこれを奪還すべく動き出した。
言うまでもなく、第3師団主力は二個歩兵連隊、二個騎兵大隊他砲兵大隊など総勢約7400名にてモン族エリア方面に向かっている。しかし、戦力は前回のワイフェン族との戦いより落ち込んでおり、相変わらず装備、人員は不足気味である。だがここで動かなければ状況はさらに悪化する。
戦い、いや、すでに単なる戦いではない。外交交渉や、早急な訓練、情報探索など知略を結集した行動が求められている。
第3師団の戦いは、すでに「戦争」なのである。