澄んだ空に教会の鐘の音が響き渡り、聖堂入り口の重々しい扉が開かれました。
ミサを終え、桜井静香校長の歓迎の言葉や聖歌隊の歌声に心を洗われた純真な乙女達は、中庭に足を踏み出します。
中世の物語に出てくるお城を思わせる、白亜の校舎、噴水──そして初夏に咲き誇る宝石のような色合いの花々。
「ねぇねぇアイリス、まるで夢みたいだねぇ。この学校も、この街も」
百合園女学院の真新しい制服に身を包んだ高原瀬蓮は、ふわふわの髪を揺らしながら、パートナーに振り返りました。
「気に入ってくれて僕も嬉しいよ」
瀬蓮より頭一つ高い位置で、ショートカットの麗人は微笑みます。
かつてシャンバラ離宮のあった、湖上の街ヴァイシャリー。百合園が元々は日本の名門女子校とはいえ、アイリス・ブルーエアリアルの故郷の様式を取り入れた校舎は、優雅な趣を漂わせています。
シスターに導かれ、乙女達がお喋りをしながら花々の間を抜けると、そこは芝生の広場になっていました。広場のあちこちには、色とりどりのテント設置されています。
その前に、髪に白百合をさした数人の女性が佇んでいました。その中から、つい、と前に進み出たのは、腰まで伸びた艶やかな髪の上級生でした。
「ようこそ百合園女学院へ。生徒会長の伊藤春佳と申します」
うやうやしく一礼をすると、桜色の唇から凛とした声が広場に響きました。
「本日は皆様と親睦を深めるため、ささやかながら歓迎のお茶会を用意いたしました。どうぞごお楽しみください」
瀬連が辺りを見回すと、なるほど、テントの下には白いクロスのかかった長テーブルが用意されていました。あるテントには、銀食器に盛られたサンドウィッチやスコーン、別のテントにはケーキやゼリー、更にチョコレートやクッキーなどのプティ・フールが、また別のテントには、お茶が用意されている、といった具合です。
それぞれの周囲には丸テーブルと椅子が用意されていました。ガーデン・パーティといった趣です。
「こちらが招待状ですわ」
生徒会副会長の井上桃子がテントの位置と、時間によって時折部活動の紹介が行われることを告げ、パンフレットを配りました。
配置図によると、左手にはテントは設置されていません。
そちらに目をやると、手にヴァイオリンやフルートを持った先輩方が、ワルツを奏で始めるところでした。どうやら最初の部活紹介のようです。
音楽に誘われて、ダンスを踊り始めている新入生の姿も見えます。
「わぁ、美味しそう」
瀬連はアイリスと共に早速テントの一つに行き、レーズンのスコーンにクロテッドクリームを盛って席を取ります。その様子を紅茶を傾けながら見つめるアイリス。
さて、みなさんはお茶を楽しんでも、生徒会のお姉様方とお話しするのもよさそうです。それともお目当ての方をダンスにお誘いしましょうか?
甘い時間を、どうぞ楽しんでください。